リズート・ファミリーの違法薬物ビジネス

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 カナダの大都市・モントリオール(ケベック州)を拠点にしたアウトロー組織として知られたのがリズート(Rizzuto)・ファミリーでした(*1)。リズート・ファミリーはニコロ・リズート(Nicolo Rizzuto)により1954年結成されました(*1)。

 ニコロ・リズートはイタリアのシチリア島出身で、1954年カナダからモントリオールに移住、同年組織を設立しました(*1)。1954年のモントリオール移住前に、ニコロ・リズートはすでにシチリア系マフィアのボスの娘と結婚していました(*1)。また1954年以前に、ニコロ・リズートはシチリア系マフィアの構成員でした(*1)。

 1954年以前、モントリオールにおける主要なアウトロー組織としては、コトローニ(Cotroni)・ファミリーが大きな勢力を誇っていました(*2)。コトローニ・ファミリーの創設者はヴィック ・“ザ・エッグ”・コトローニ(Vic “the Egg” Cotroni)でした(*2)。ヴィック ・“ザ・エッグ”・  コトローニは1911年イタリアのカラブリアに生まれ、1924年モントリオールに移住しました(*2)。ニコロ・リズートの移住より30年前に、ヴィック ・“ザ・エッグ”・  コトローニはモントリオールに移住していたのです。

 ヴィック ・“ザ・エッグ”・ コトローニ(Vic “the Egg”)はプロレスラーとしてのキャリアを経た後、アウトロー組織を作りました(*2)。コトローニ・ファミリーの設立後、ヴィック ・“ザ・エッグ”・ コトローニは隣国アメリカ合衆国のボナンノ(Bonanno)・ファミリーの首領カーマイン・ギャランテ(Carmine Galante)と親交を結びました(*2)。ボナンノ・ファミリーはニューヨーク五大ファミリーの1つでした(*1)。ニューヨーク五大ファミリーは全てシチリア系の組織でした(*3)。モントリオールはカナダ東部にあり、アメリカ国境特にニューヨークとは近い距離に位置しています。「距離的な近さ」は、両組織を結びつけた要因の1つと考えられます。

 当時「地中海発アメリカ着のヘロイン密輸経路」はフレンチコネクションと呼ばれました(*1)。当時ヨーロッパからアメリカに、密輸ヘロインの大動脈が流れていたことが分かります。1953年ボナンノ・ファミリーとコトローニ・ファミリーはモントリオールを「フレンチコネクションの中継地」として組み込ませることに成功しました(*1)。ヘロイン密輸ビジネスはコトローニ・ファミリーを経済的に潤わせました(*2)。

 モントリオールが「フレンチコネクションの中継地」に昇格した1953年の1年後、ニコロ・リズートはシチリアからモントリオールに移住しています。シチリア系マフィアが「急成長するモントリオールの利権」に食い込むべく、ニコロ・リズートを派遣したという見方があります(*1)。シチリア系マフィアにとっては、カラブリアへの対抗意識もあったのでしょう。

 リズート・ファミリーは結成時から違法薬物取引を主な資金源としました(*1)。以後リズート・ファミリーは組織を伸張させていきました(*1)。コトローニ・ファミリーはリズート・ファミリーの存在を看過できなくなりつつありました(*1)。

 1974年頃、コトローニ・ファミリーがニコロ・リズートを殺害する噂が広まり、ニコロ・リズートは南米に身を隠しました(*1)。1974年頃までは、リズート・ファミリーに比しコトローニ・ファミリーの方が優勢であったことが分かります。

 しかし1978年コトローニ・ファミリー最高幹部のパオロ・ヴィオリ(Paolo Violi)はリズート・ファミリーにより銃殺されました(*1)。コトローニ・ファミリー最高幹部殺害を機に形勢は逆転しました(*1)。1978年以降、モントリオールの裏社会ではリズート・ファミリーが主導権を握りました(*1)。

 南米滞在中、ニコロ・リズートは現地のアウトロー組織と親交を結び、コロンビア産コカインをベネズエラ経由でモントリオールに密輸する経路を開拓しました(*1)。リズート・ファミリーの活動によりモントリオールは「北米最大の違法薬物密輸センター」となりました(*1)。当時のモントリオールには、パキスタンやレバノンから大麻、コロンビアからコカイン、シチリアやタイからヘロインが密輸されていました(*1)。

 ボナンノ・ファミリーとコトローニ・ファミリーがモントリオールを「フレンチコネクションの中継地」に組み込ませた1953年に比し、1978年以後のモントリオールでは「違法薬物の種類」と「違法薬物の仕入れ先」が多様化していったことが考えられます。  

 主にニューヨーク州やニュージャージー州のマフィアがモントリオール着の違法薬物をリズート・ファミリーから購入しました(*1)。リズート・ファミリーは違法薬物をアメリカ合衆国に「再輸出」することで、収益を得ていたことが分かります。

<引用・参考文献>

*1 『THE  MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』(GERG THOMPSON、2014、CreateSpace Independent Publishing Platform), p18-23

*2 『THE  MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』, p34-36

*3 Anna Sergi.(2018). New York crime families survive and collaborate. Jane’s Intelligence Review.

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