カナダの都市ハミルトン(オンタリオ州)を拠点とするアウトロー組織として知られるのが、ムシターノ・ファミリー(Musitano Family)です(*1)。ムシターノ・ファミリーは1950年代、ドミニク・ムシターノ(Dominic Musitano)により結成されたと言われています(*1)。ムシターノ・ファミリーは、イタリアのカラブリア州を拠点とする「ンドランゲタ」(Ndrangheta)系列に位置付けられてきました(*1)。
結成以降のムシターノ・ファミリーは、アメリカ合衆国の「マガディーノ・ファミリー」(Magaddino Family)の下で資金獲得活動をしていました(*1)。マガディーノ・ファミリーはニューヨーク州のバッファローやニューヨークを主な拠点として活動する一方、カナダのハミルトンにも進出していました(*1)。ニューヨーク州北西部に位置するバッファローは、ハミルトンに地理的に近接しています。
ジョン・パパリア(John Papalia)はマガディーノ・ファミリーの幹部であり、ハミルトンにおけるマガディーノ・ファミリーの資金獲得活動を仕切っていました(*1) ジョン・パパリアによる主な資金獲得活動は、ヘロインの密輸でした(*1)。
ジョン・パパリアは1950年代から、ニューヨークのボナンノ・ファミリー(Bonnano Family)と手を組みました(*2)。当時“フレンチコネクション”と呼ばれるヘロインの密輸経路(フランスのマルセイユ発、アメリカ及びカナダ着)がありました(*2)。ボナンノ・ファミリーのカーマイン・ギャランテ(Carmine Galante)は“フレンチコネクション”を担うプレーヤーの1人でした(*2)。カーマイン・ギャランテはジョン・パパリア を見込み、“フレンチコネクション”に加わらせました(*2)。
ヘロイン密輸ビジネスにおいてジョン・パパリアはシチリア島出身のアグエチ(Agueci)兄弟とも活動を共にしました(*2)。アグエチ兄弟はトロント(オンタリオ州)のパン屋を拠点とする「ヘロイン配達ビジネス」を仕切っていました(*2)。ヘロインはトロントのパン屋から、ニューヨーク州西部、オハイオ州、オンタリオ州南部の顧客に配達されていました(*2)。
しかしアグエチ兄弟の1人アルバートが1961年、マガディーノ・ファミリーのボスであるステファノ・マガディーノの指示により、殺害されました。以後アグエチ兄弟の力は弱まり、ジョン・パパリアがアグエチ兄弟のオンタリオ州南部のビジネスを引き継ぎました(*2)。アグエチ兄弟の1アルバート殺害には、ジョン・パパリアも関与していたことは想像に難くありません。以後、ジョン・パパリアは北米で有数のヘロイン密輸業者となっていきました(*1)。
ムシターノ・ファミリーの創設者と考えられるドミニク・ムシターノが1995年、死去しました(*3)。ムシターノ・ファミリーは、ドミニクの息子であるパスクワーレ(Pasquale)とアンジェロ(Angelo)の二人により継承されました(*3)。パスクワーレとアンジェロは上位団体のトップであるジョン・パパリアの殺害を企て、1997年実行に移しました(*3)。1997年ジョン・パパリアは自宅の外でヒットマンにより射殺されました(*3)。
ジョン・パパリアの殺害により、ムシターノ・ファミリーがハミルトンの支配権を握ったかと思われましたが、ヒットマンが逮捕されたことで状況が一変しました(*3)。ヒットマンの供述により、ジョン・パパリアの殺害を指示した罪で、2000年パスクワーレとアンジェロは起訴されました(*3)。パスクワーレとアンジェロには、10年の服役という判決が下されました(*3)。パスクワーレとアンジェロは6年後仮釈放されましたが、アンジェロは2007年再逮捕されました(*3)。2007年以降、ムシターノ・ファミリーの活動は減退し、トロントのアウトロー組織等にハミルトンの縄張りを侵食されていきました(*4)。
<引用・参考文献>
*1 『THE MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』(GERG THOMPSON、2014年、CreateSpace Independent Publishing Platform), p51-52
*2 『THE MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』, p53-55
*3 『THE MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』, p56-58
*4 『THE MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』, p60
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