タバコの密輸

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 タバコは世界中に普及している商品です。しかしタバコ税率が各国によって異なる為、同じタバコ(例えば「マルボロ」)でも価格が変わってきます。「タバコの価格差」を利用し、違法の収益を得てきたのがカナダのマフィアでした(*1)。

 カナダのタバコ税率は高い一方、隣国アメリカ合衆国のタバコ税率はカナダに比して低かったです(*1)。アメリカ合衆国のタバコをカナダに密輸し販売すると利益が生まれました。タバコの密輸事業はカナダのマフィアにとって大きな収益源でした(*1)。アメリカ合衆国からの主な密輸経路として、国境付近の「アメリカ合衆国側の先住民族の保留地」を通る経路がありました(*1)。

 アメリカ合衆国では先住民(インディアン)の部族は、保留地(Reservation)で自治権を有していました(*2)。保留地自治の為、部族は部族憲法と部族議会を設けていました(*2)。

 2019年時点においてアメリカ合衆国には「連邦承認部族」として573の部族がいました(*3)。またアメリカ合衆国には「未承認部族」もおり、2019年時点で237の未承認部族が承認申請をしていました(*4)。

 2019年時点でアメリカ合衆国には326の保留地がありました(*5)。保留地では州、郡、市などの法律や規定が用いられないことがありました(*2)。有名なのが「消費税の非課税」でした。保有地内で販売されたタバコ、酒、ガソリンには「州の消費税」が課されませんでした(*2)。

 1964年ワシントン州のコルビル保留地においてレオナルド・タナスケットはタバコ店を開き、非課税でタバコを販売していきました(*6)。当然レオナルド・タナスケットの店はタバコを安く販売できました。ワシントン州の税務局や近隣のタバコ店は、レオナルド・タナスケットによる非課税での販売に反発しました(*6)。

 結果、両者は裁判で争うことになりました。1978年連邦地裁は、コルビル保留地に州税は適用されないという判決を言い渡しました(*6)。司法の場において「保有地において消費税は課されないこと」が明らかになったのです。

 1978年連邦地裁の判決前、フロリダ州セミノール保留地ではタバコの非課税販売が始まっていました。セミノール部族のトミー・ハワードは、ワシントン州コルビル保留地におけるタバコ非課税販売の話を聞き、1975年フロリダ州セミノール保留地でタバコ店を開き、タバコを非課税で販売していきました(*6)。

 1970年代後半、他の保留地でもタバコが非課税で販売されていきました(*6)。 先述したように、アメリカ合衆国側の先住民族の保留地(カナダ国境付近)は、タバコの密輸経路として機能していました。加えて先住民族の保留地では、タバコの非課税販売という利権が存在していたことが分かります。

 また国外だけでなく、アメリカ合衆国の国内においてもタバコは密輸されていました。背景には、アメリカ合衆国においてタバコ税の税率が州によって異なることがありました(*7)。1964年以降のアメリカ合衆国では、喫煙による健康被害が問題視されていきました(*7)。いくつかの州はタバコ税の税率を上げていくことにしました(*7)。一方、ノースカロライナ州はタバコに税金をかけていませんでした(*7)。ゆえにノースカロライナ州のタバコ価格に比べて、2~2.5倍も高い価格で販売されている州がありました(*7)。

 コロンボ・ファミリー(Colombo family)はノースカロライナ州から大量のタバコを密輸していました(*7)。コロンボ・ファミリーはシチリア系の組織(アメリカ・マフィア)で、ニューヨーク五大ファミリーの1つでした(*8)。ニューヨーク都市圏において年間販売された4億箱程度が密輸品であったと推測されていました(*7)。

 アメリカ・マフィアは長い間、タバコの自動販売機ビジネスの大半を支配していました(*7)。またアメリカ・マフィアは多くのクラブやレストランに密輸タバコを売っていきました(*7)。タバコ密輸ビジネスにおいて、アメリカ・マフィアは販路を持っていたことが分かります。

<引用・参考文献>

*1 『THE  MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』(GERG THOMPSON、2014、CreateSpace Independent Publishing Platform), p50-51

*2 『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』(野口久美子、2019年、ちくま新書),p42-45

*3 『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』,p26

*4 『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』,p37

*5 『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』,p38

*6 『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』,p146-151

*7 『The Mafia Encyclopedia, Third Edition』(Carl Sifakis,2005,Facts On File),p98-99

*8 『FOR BEGINNERS シリーズ マフィア』(安田雅企、1994年、現代書館),p158-160

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