ギャングスタ・ラップの始まり

ギャングスタ・ラップの始祖

　ラップミュージックのサブジャンル（下位カテゴリー）の1つに「ギャングスタ・ラップ」があります。ギャングスタ・ラップとは、都市の貧困エリアにおける暴力や女性蔑視などの内容を歌詞（リリック）にしたラップミュージックです(*1)。

　ギャングスタ・ラップの始祖と位置づけられているのが、スクーリー・Dです(*2)。スクーリー・Dはアメリカのフィラデルフィア（ペンシルベニア州）で生まれ育ったアフリカ系で、22歳からラップミュージックを始めました(*2)。スクーリー・Dはフィラデルフィアのギャング組織「パーク・サイド・キラズ」にも所属していました(*2)。

　1985年リリースされたスクーリー・D 3枚目のシングル「P.S.K What Does It Mean？」では暴力、違法薬物、セックスがリリックに盛り込まれていました(*2)。「P.S.K What Does It Mean？」の「P.S.K」は、ギャング組織「パーク・サイド・キラズ」の頭文字から来ていました(*2)。「P.S.K What Does It Mean？」は史上初のギャンスタ・ラップ曲として位置づけられています(*2)。

スクーリー・D「P.S.K What Does It Mean？」

ギャングスタ・ラップ最初の曲は自主リリース

　1985年以前にもスクーリー・Dは「Gangster Boogie」という曲を作り、地元フィラデルフィアのラジオ局「WUSL」（通称「パワー99」）のラップ番組「Street Beat」のDJレディ・Bに売り込みました(*3)。「Gangster Boogie」のリリックにも銃や違法薬物に関する内容が入っていました(*3)。レディ・Bはリリックの内容から拒否、スクーリー・Dに対しレコード契約する会社はないと告げました(*3)。当然、ラジオで「Gangster Boogie」は流してもらえませんでした(*3)。

　以後、スクーリー・Dは自身でレコードを制作し、また企業経営のレコード店ではなく、家族経営のレコード店に営業する道を選択しました(*3)。家族経営のレコード店は企業経営のレコード店との差別化の為に、スクーリー・Dのように自主リリースしたレコードを望みました(*3)。この流れの中で「P.S.K What Does It Mean？」は1985年自主リリースされたのでした(*3)。

アイス・TとN.W.A

 「P.S.K What Does It Mean？」がリリースされた翌1986年、ロサンゼルス（カリフォルニア州）のアイス・Tが「6 In The Mornin’」をリリースしました(*2)。アイス・Tは「P.S.K What Does It Mean？」の曲から発想を得て、「6 In The Mornin’」を制作していました(*2)。「6 In The Mornin’」には「P.S.K What Does It Mean？」のボォーカル部分が転用されたと言われています(*4)。「6 In The Mornin’」により、ギャングスタ・ラップがロサンゼルスに広まりました(*2)。

アイス・T「6 In The Mornin’」

　ギャングスタ・ラップをさらに広めたのがN.W.Aでした(*4)。N.W.Aはアラビアン・プリンス、DJイェラ、Dr.ドレイ、イージー・E、アイス・キューブ、MRレンの6名から構成され、コンプトン市（カリフォルニア州）で1987年結成されました(*4)。N.W.Aのリリックは過激だった為、アメリカの主要ラジオ局はN.W.Aの曲を流しませんでしたが、N.W.Aの『Straight  Outta Compton』(1988年)と『Always Into Somethin’』（1991年）のアルバムは大ヒットしました(*4) (*5)。

N.W.A「Gangsta Gangsta」（『Straight  Outta Compton』）

＜引用・参考文献＞

*1 『アメリカ音楽史　ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで』（大和田俊之、2011年、講談社選書メチエ）, p234-235

*2 『ギャングスタ・ラップ ディスクガイド　ヒット・定番600曲・600枚』（小渕晃編著、2020年、Pヴァイン）, p8-10

*3 『ギャングスター・ラップの歴史　スクーリー・Dからケンドリック・ラマーまで』（ソーレン・ベイカー著、塚田桂子訳、2019年、DU BOOKS）, p2-4

*4 『ヒップホップ！　黒い断層と21世紀』（関口義人、2013年、青弓社）, p73-74

*5 『ギャングスタ・ラップ ディスクガイド　ヒット・定番600曲・600枚』, p14-15