金町一家と日雇労働者派遣ビジネス

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 2011年山口組2次団体・國粹会から内部昇格する形で、落合金町連合が「山口組2次団体」となりました(*1)。落合金町連合は内部昇格に際し、國粹会2次団体の落合一家・金町一家・保科一家により結成された新しい組織でした(*1)。落合金町連合の出身母体の國粹会は、元々独立団体でした。國粹会の前身は「日本国粋会」で、日本国粋会は1958年結成されました(*2)。日本国粋会の2次団体は、関東地方や中部地方等に拠点を置く老舗博徒組織でした(*3)。日本国粋会の組織形態は「連合型」であり、1次団体と2次団体の関係は垂直的ではありませんでした(*2)。

 1991年金町一家の工藤和義総長が日本国粋会会長に就任し、組織名を「國粹会」に改称させました(*2)。都心の繁華街に拠点を置く國粹会・2次団体は、住吉会や稲川会に縄張りを貸し出していました(*4)。首都圏の一部の繁華街では、縄張りの「大家」(賃貸人)が國粹会・2次団体、「店子」(賃借人)が住吉会や稲川会という構図がありました。

 2005年工藤和義会長が「山口組組長司忍の舎弟」になり、國粹会は山口組の傘下に入りました(*4)。山口組入りする前年2004年時の國粹会は1都4県を活動範囲とし、約350人の構成員を抱えていました(*5)。國粹会の山口組加入は、住吉会や稲川会にとって「大家が山口組に変わった」ことを意味しました。住吉会や稲川会は「縄張りの賃貸借契約の解消」つまり「縄張りの返還」を懸念しました(*6)。話し合いの結果、「縄張りの賃貸借契約」は既存内容で維持されることになりました (*7)。

 2007年2月5日東京都で住吉会2次団体・小林会の幹部が國粹会組員2人により射殺されました(*8)。小林会は銀座を拠点に活動していました(*9)。銀座は國粹会2次団体・生井一家の縄張りであった為、小林会は生井一家から「縄張りを借りる」形で活動していました(*9) (*10)。小林会の置かれた状況から、山口組と住吉会の抗争が懸念されましたが、2月8日両団体は和解に至りました(*7)。しかし同月15日、國粹会会長の工藤和義(山口組最高顧問)が拳銃自殺しました(*7)。國粹会会長は藤井英治により引き継がれました(*11)。

 山口組加入(2005年)後の数年間、國粹会は「連合型」の組織形態を維持していました(*12)。2007年の藤井英治会長就任時、國粹会は「1次団体が2次団体を支配下に置く」組織形態(いわゆる「直参制」)に改めました(*12)。落合金町連合を構成した落合一家・金町一家・保科一家は、内部昇格の2011年時「國粹会の下部団体」という位置づけでした。

 工藤和義を輩出した金町一家は東京都台東区清川を本拠地としました(*13)。金町一家の初代は坂本直吉で、七代目総長が工藤和義でした(*13)。工藤和義は1984年「金町一家七代目総長」に就任しました(*13)。金町一家は博徒組織で、1983年時には西戸組、金竜組、志和組等の下部団体を抱えていました(*14)。工藤和義の出身母体は金竜組でした(*14)。金町一家の資金獲得源の1つとして、競馬や競輪のノミ屋がありました(*15)。

 金町一家の本拠地・台東区清川は、「山谷」と呼ばれた場所の一部でした。戦後、山谷は日雇労働者の街として知られ、日雇労働の仕事を求めた人々が山谷に集まりました(*16)。当時、建設業において日雇労働の需要がありました(*16)。企業が日雇労働者を確保する際、「職業安定所」と「路上」の二つの経路がありました(*16)。職業安定所は「合法経路」でしたが、企業にとって求人票の作成等の手間が掛かりました(*16)。一方、路上は「違法経路」でしたが、企業にとって手間が掛かりませんでした(*16)。山谷の路上において手配師いわゆる人夫出しが「企業の代理」として日雇労働者の確保にあたりました(*16)。山谷における日雇労働者派遣ビジネスは「金町一家の管轄」でした(*17)。大阪の釜ヶ崎では山口組等のヤクザ組織が日雇労働者派遣ビジネスを仕切っていました(*17)。

 金町一家は日雇労働者派遣ビジネスに加えて、失業手当の不正受給ビジネスも手掛けていました(*17)。当時「2カ月間における労働日が28日未満」の日雇労働者は失業手当を受給できました(*17)。失業手当の申請には「労働日28日未満を示す出勤簿」が必要でしたが、出勤簿は違法領域で売買されていました(*17)。金町一家は日雇労働者から失業手当の一部を徴収し、収益を得ていました(*17)。

<引用・参考文献>

*1 『六代目山口組10年史』(2015年、メディアックス), p79

*2 『洋泉社MOOK・ヤクザ・指定24組織の全貌』(有限会社創雄社・実話時代編集部編、2002年、洋泉社), p162-164

*3 『洋泉社MOOK・義理回状とヤクザの世界』(有限会社創雄社実話時代編集部編、2001年、洋泉社), p73

*4 『六代目山口組ドキュメント2005~2007』(溝口敦、2013年、講談社+α文庫), p46-50、242-243

*5 警察庁「平成16年の暴力団情勢」, p21

*6 『六代目山口組ドキュメント2005~2007』, p106-110

*7 『山口組の100年 完全データBOOK』(2014年、メディアックス), p327-329

*8 『山口組 分裂抗争の全内幕』(西岡研介+鈴木智彦+伊藤博敏+夏原武 ほか、2016年、宝島SUGOI文庫), p319

*9 『六代目山口組ドキュメント2005~2007』, p218

*10 『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社), p43

*11 『六代目山口組10年史』, p25

*12 『実話時代』2015年10月号, p21

*13 『洋泉社MOOK・義理回状とヤクザの世界』(有限会社創雄社実話時代編集部編、2001年、洋泉社), p178

*14 『ヤクザと過激派が棲む街』(牧村康正、2020年、講談社),p12,151-152

*15 『ヤクザと過激派が棲む街』,p144

*16 『裏社会の日本史』(フィリップ・ポンス、安永愛 訳、2018年、ちくま学芸文庫), p181-185

*17 『裏社会の日本史』, p186-187

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