旧ソ連の地下市場における音楽ソフト媒体

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 ロシアの前身はソビエト社会主義共和国連邦(以下「旧ソ連」)でした。旧ソ連は1922年結成、1991年消滅しました(*1)。旧ソ連は1991年まで、社会主義体制をとっていました。資本主義体制に比し社会主義体制では国家機関が「富の分配」装置として機能する性格上、自ずと強い権限を持つに至ります。実際旧ソ連は「国家機関の強い国」であり、あらゆる領域において「国家機関の管理」が及んでいました(*2)。

 旧ソ連では国家機関が音楽を検閲していました(*2)。旧ソ連においては国営レコード会社・メロディヤが唯一の「音楽ソフト供給元」でした(*3)。つまり法律上「メロディヤ以外からの供給活動」は基本的に「違法」だったのです。しかしながら1960~1980年代の旧ソ連ではメロディヤ以外から多くの音楽が供給されました(*3)。よってメロディヤ以外から供給された音楽ソフトの流通市場は違法領域、つまり「地下市場」に位置づけられました。

 旧ソ連の地下市場において音楽ソフトの媒体(商品形態)はカセットテープでした(*3)。地下市場ではアルバム、シングルともに「テープアルバム」「テープシングル」として流通していました(*3)。1962年オランダの電気メーカー・フィリップス社がカセットテープを開発、同時にカセットテープとテープレコーダーを世界で初めて発売しました(*4)。1965年にはフィリップス社はカセットテープの規格を無償公開、カセットテープは全世界に普及していきました(*4)。

 カセットテープは「媒体(メディア)」であり、テープレコーダーは「録音・再生装置」でした。1966年日本の電気メーカーが国産カセットテープ、国産テープレコーダーを発売しました(*4)。

 カセットテープの主な使用目的は「録音」でした(*4)。カセットテープ(及びテープレコーダー)により、人々はラジオから発信された流行歌を録音でき、また好きな時に録音した音源を再生できるようになりました(*5)。またカセットテープは規格が共通であり、安価で入手できた媒体だったため、多くの人々に行き渡りました(*4)。またカセットテープのサイズは人の手のひらに収まるコンパクトさで、直径約30cmのLPレコードに比し携帯性に優れていました。

 1960~1980年代、合法領域における音楽ソフトの主な媒体(商品形態)はLPレコードでした(*4)。カセットテープの普及により後に日本のレコード会社はカセットテープに音源を入れ、発売しました(*4)。当時の日本の消費者は音源を買う際、LPレコードかカセットテープどちらかの媒体を選びました(*4)。カセットテープは「個人の録音目的の媒体」から「音楽ソフトの流通用媒体」へと脱皮していたったのです。

 旧ソ連の地下市場では安価な面から、媒体としてカセットテープが採用されました(*4)。旧ソ連では出版物も検閲された為、いわゆる「地下出版」も盛んでした(*2)。旧ソ連の地下出版は地下市場で流通した音楽ソフトも含めて「サミズダート」と呼ばれました (*2)。地下市場の音楽ソフトは「マグニティズダード」とも呼ばれました(*2)。カセットテープは「磁気テープ」である為、磁気を意味する「マグニティ」という言葉が差し込まれたのでした(*2)。先述のテープアルバムは「マグニートアルバム」とも呼ばれました(*3)。

 旧ソ連のディスコは、西側(資本主義国)の音楽は流す曲の「20%以下」に収めるように、国家機関から指示されていました(*6)。旧ソ連のディスコは「国産の曲」を大量に流すことになったのですが、メロディヤ(旧ソ連国営のレコード会社)発の曲だけでは賄えず、マグニティズダード(地下市場の音楽ソフト)も流していました (*6)。合法的領域のディスコで流されたことで、マグニティズダードはより拡散していきました(*6)。マグニティズダードにとってディスコは「拡散」の役割を果たしました。

 また旧ソ連の地下市場ではオープンリールも音楽ソフト媒体として利用されていました(*7)。オープンリールは、カセットテープ登場(1962年)以前から存在していた録音媒体でした(*4)。オープンリールの弱点としては、テープがむき出しの為、ホコリ等を巻き込んでしまうことがありました(*4)。

<引用・参考文献>

*1 『データブック オブ・ザ・ワールド 2020年版 -世界各国要覧と最新統計-』(二宮書店編集部、2020年、二宮書店), p388

*2 『共産趣味インターナショナルVol5 共産テクノ 旧ソ連編 増補改訂版』(四方宏明、2021年、合同会社パブリブ), p21-22

*3 『共産趣味インターナショナルVol5 共産テクノ 旧ソ連編 増補改訂版』, p32

*4 『日本カセットテープ大全 (タツミムック)』「カセットテープヒストリー ~音楽文化を支えた録音メディアが辿った歴史~」(佐藤良平、2015年、辰巳出版),p114-121

*5 『『FMステーション』とエアチェックの80年代 僕らの音楽青春記』(恩藏茂、2021年、河出文庫), p118-119

*6 『共産趣味インターナショナルVol5 共産テクノ 旧ソ連編 増補改訂版』, p210-211

*7 『共産趣味インターナショナルVol6共産テクノ 東欧編』(四方宏明、2018年、合同会社パブリブ), p54

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