2017年1月の神戸山口組-会津小鉄会分裂劇から振り返る

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 2015年8月27日山口組から13団体(全て2次団体)が離脱し、神戸山口組を結成しました(*1)。離脱派には山口組主要2次団体の山健組と宅見組がいました(*2)。離脱話は噂レベルで聞こえていたものの、山口組執行部は事前に離脱情報を把握できず(*2)、「突如の山口組分裂劇」を許してしましました。

 ジャーナリストの溝口敦氏は2014年10月、13団体の1つだった毛利組トップ・毛利善長組長と会ったと著書で述べています(*3)。毛利善長組長は溝口敦氏に、「反弘道会の一派」が密かに結成されていることを伝えました (*3)。山口組トップ、ナンバー2ともに弘道会出身者が就いており、山口組内での「反弘道会一派」の結成は、体制批判を意味し、当然禁止事項です。つまり反弘道会一派の結成は、クーデーターもしくは離脱の「準備活動」を示唆していました。13団体の離脱は用意周到に行われたことが窺われます。

 翌9月5日神戸山口組は定例会を初開催、組織人事を決めました(*4)。同日、定例会の開催場所に住吉会2次団体・幸平一家トップの加藤英幸総長が訪れました(*4)。加藤英幸総長の訪問は、幸平一家が神戸山口組を承認したことを意味しました。幸平一家は関東屈指の好戦的組織です(*5)。幸平一家からの承認は神戸山口組に「一定の正当性」を与えたのでした。

 神戸山口組結成の翌2016年時点で神戸山口組の構成員数は約2,600人でした(*6)。対して山口組の構成員数は約5,200人でした(*6)。構成員数の比では山口組が2倍の差をつけていました。しかし当時の神戸山口組には勢いがありました。2015年8月の結成以降、新規直参(2次団体トップ)が増えていました。直参数は結成時12人(神戸山口組トップ・井上邦雄組長を除く)でしたが、2017年4月時点では25人にまで増加しました(*1)。

 また神戸山口組は上納金制度を改めました。2015年8月以前の山口組は各直参から115万円(毎月)の会費(上納金)を徴収していました(*7)。対し神戸山口組は役職付30万円、中堅20万円、役職なし10万円の会費徴収に設定しました(*8)。2015年8月以前の山口組に比し、上納金が大幅に減額されました。上納金の低さは「神戸山口組の求心力」の1つになったと考えられます。他方、神戸山口組の中核組織・山健組は直参(3次団体トップ)から70~80万円(毎月)の会費を徴収していました(*9)。加えて山健組直参は「登録料」(構成員1人につき1万円。仮に10人の構成員を抱える組織なら10万円)も山健組本部に毎月支払う必要がありました(*9)。神戸山口組内の上納金制度は実質「ダブルスタンダード」であったことが分かります。

 山口組との抗争において神戸山口組は「返し厳禁」という策をとりました(*1)。実際には2016年に山口組側の施設に対し火炎瓶の投げ込み及びトラック特攻がありました(*10)。また同年山健組は新神戸駅で山口組トップ司忍組長に対し呼びかける等の威嚇行為を仕掛けました(*10)。つまり「返し厳禁」とは、「敵対組織構成員の殺傷禁止」という意味合いであったことが推測されます。

 神戸山口組の執行部には「組織犯罪処罰法の適用」回避があったと考えられます。2010年3月山口組2次団体・小西一家の落合勇治総長は住吉会との抗争事件に関し、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)の容疑で起訴されました(*11)。2017年12月最高裁判所にて落合勇治総長の無期懲刑が確定されました(*11)。また2010年4月当時の山健組若頭・山本國春が多三郎一家総長殺人事件に関し、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)の容疑で兵庫県警に逮捕されました(*12)。2015年最高裁判所にて山本國春の懲役20年の刑が確定されました(*13)。組織犯罪処罰法では「殺害の指揮・命令者」まで取締りの対象が及びます。また司法側は重い判決を下しました。神戸山口組執行部はこの2件の例を踏まえ、「敵対組織構成員の殺傷禁止」の策をとったと考えられます。2016年5月神戸山口組2次団体・池田組若頭が弘道会構成員により射殺された後も、神戸山口組は同様の策をとり続けました(*1)。つまり神戸山口組執行部は殺傷攻撃による「戦果」(得点)よりも、警察組織からの取締り強化(失点)を回避する戦略をとったといえます。

 ヤクザ組織間の抗争では「敵対組織トップ及び主要幹部殺害」が抗争の趨勢を決めます。おおむねヤクザ組織の運営は専制的です。軍事の世界では独裁国家を攻める時、攻撃対象を「国家指導部層」に絞ります(*14)。独裁国家は民主主義国家に比し、あらゆる意思決定が国家指導部層に集中している為、国家指導部層が壊滅すれば、国家機能も即停止してしまうからです(*14)。ヤクザ組織もトップ及び主要幹部殺害されれば、組織の統制は困難になります。従来の考えからすると、神戸山口組の策は時代に即しているものの、斬新であったと考えられます。

 2017年1月10日、京都の会津小鉄会は他団体に対し「原田昇若頭七代目就任決定」という内容のフックスを送りました(*15)。会津小鉄会は山口組と親戚縁組をしており(*15)、また2008年11月山口組若頭・髙山清司はトップ馬場美次会長(六代目)の「後見人」になりました (*16)。しかし山口組分裂以降、馬場美次会長は山口組と距離を置き、神戸山口組に接近していきました(*15)。馬場美次会長は神戸山口組トップの井上邦雄組長とは「兄弟分」の関係でした(*17)。一方で馬場美次会長はこの頃、引退の意思を示していました(*15)。

  翌1月11日事態は急変しました。会津小鉄会は他団体に対し「原田昇若頭絶縁」という内容のファックスを送信しました(*15)。前日の内容が一転したのです。同日、山健組部隊が会津小鉄会本部事務所(京都市)に侵入、原田若頭派の構成員らを制圧し、事務所を占拠しました(*15)。前々から会津小鉄会内では「山口組支持派」と「神戸山口組支持派」に分かれていた模様です(*15)。山口組支持派の代表者が原田昇若頭で、神戸山口組支持派の代表者が馬場美次会長でした(*15)。前日1月10日には、弘道会若頭補佐・野内正博が会津小鉄会事務所を訪問していました(*18)。その日(1月10日)に、会津小鉄会が「原田昇若頭七代目就任決定」のファックスをしたことから、野内正博は原田昇を次期トップに擁立するべく訪れたことは想像に難くありません。野内正博が帰った後に、山健組は形勢逆転すべく、会津小鉄会事務所に乗り込んだのです。当時の山健組に動員力、戦闘力があったことが窺い知れます。山健組の占拠後、弘道会部隊が会津小鉄会事務所を取り囲みましたが、京都府警に制止にされました(*15)。

 1月21日馬場美次会長らの神戸山口組支持派は「七代目会津小鉄会継承式」を行い、金子利典が七代目会長に就任しました(*15)。一方、原田昇若頭らの山口組支持派も2月7日、「七代目会津小鉄会」を立ち上げ、原田昇が七代目会長に就任しました(*15)。京都に2つの「七代目会津小鉄会」が誕生したのです。

 会津小鉄会の分裂劇は当時神戸山口組が山口組と拮抗していたことを物語るエピソードといえます。しかし同年4月、神戸山口組から織田絆誠若頭代行の一派が離脱、任俠団体山口組(現在の絆會)を結成しました(*1)。以降、神戸山口組から離脱組織が相次ぎました。2021年12月時点で神戸山口組の直参数は14人でした(*19)。結成当初の13団体のうち、8団体は神戸山口組から離脱もしくは消滅しました(*19)。宅見組、俠友会、西脇組、松下組、大門会の5団体が神戸山口組2次団体として活動しています(*19)。2021年時点の神戸山口組の構成員数は約510人でした(*20)。2016年(約2,600人)に比し、構成員数は約80%減少しています。

 神戸山口組の劣勢は京都の会津小鉄会にも影響を及ぼしました。2018年5月金子利典会長(神戸山口組支持派)は山口組から金属バットで襲撃されました(*18)。2021年1月弘道会主導の下、2つの七代目会津小鉄会は合併しました(*18)。新生・七代目会津小鉄会会長には金子利典が、若頭には原田昇が就きました(*21)。また山口組若頭・髙山清司が七代目会津小鉄会会長・金子利典の後見人を務めました(*21)。

<引用・参考文献>

*1 『別冊 実話時代 龍虎搏つ!広域組織限界解析Special Edition』(2017年6月号増刊), 98-101p

*2 『山口組 分裂抗争の全内幕』「第3 章 二つの山口組―暗闘の全舞台裏 前編」(鈴木智彦、2016年、宝島SUGOI文庫),p90-93

*3 『喰うか喰われるか 私の山口組体験』(溝口敦、2021年、講談社), p299-304

*4 『実話時代』2015年12月号, p40-50

*5 『別冊 実話時代 龍虎搏つ!広域組織限界解析Special Edition』,p91

*6 警察庁「平成28年における 組織犯罪の情勢」,34

*7 『山口組 分裂抗争の全内幕』「第2 章 六代目山口組直参が語った「これは分裂ではなく謀反だ」」(鈴木智彦、2016年、宝島SUGOI文庫),p75

*8 『山口組 分裂抗争の全内幕』「第3 章 二つの山口組―暗闘の全舞台裏 前編」(鈴木智彦、2016年、宝島SUGOI文庫),p113

*9 『山口組三国志 織田絆誠という男』(溝口敦、2018年、講談社+α文庫), p38-39

*10 『週刊実話増刊12月20日号 週刊実話ザ・モンスターVol.3』(2019年、日本ジャーナル出版), p12-22

*11 『サムライ 六代目山口組直参 落合勇治の半生』(山平重樹、2018年、徳間書店), p21,246-247

*12 『山口組 分裂抗争の全内幕』「第7章 弘道会10年支配の黒歴史」(伊藤博敏、2016年、宝島SUGOI文庫),p247-249

*13 『週刊実話』2021年4月29日号, p37

*14 『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(北村淳、2015年、講談社+α新書), p260-261

*15 『別冊 実話時代 龍虎搏つ!広域組織限界解析Special Edition』, p68

*16 『実話時代』2015年7月号, p39

*17 『山口組 分裂抗争の全内幕』「第3 章 二つの山口組―暗闘の全舞台裏 前編」(鈴木智彦、2016年、宝島SUGOI文庫),p125-126

*18 『週刊実話』2021年2月18日号, p32-35

*19 『週刊実話』2022年1月6・13日号, p225

*20 警察庁「令和3年における 組織犯罪の情勢」

*21 『週刊実話』2021年3月18日号, p32-33

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