ヤクザ組織の構成員は、他組織の構成員と「兄弟関係」を結ぶ場合がありました(*1)。他組織の構成員と結ぶ兄弟関係において、当然両者の間に血縁はなかった為、擬制的親族関係が形成されました。
他組織の構成員と「対等の兄弟関係」を結んだ場合、当事者同士は「呑み分け兄弟」と呼ばれました(*1)。呑み分け兄弟の場合、「五分兄弟盃」が交わされました(*1)。呑み分け兄弟の別名は「五分と五分の兄弟分」(五分の兄弟分)でした(*2)。呑み分け兄弟は、互いを「兄弟」と呼び合いました(*2)。兄弟分とは義兄弟(擬制的兄弟)のことです。
一方、他組織の構成員と「格差のある兄弟関係」を結ぶ場合もありました。その場合、「兄舎弟盃」が交わされました(*1)。上位者が「兄貴分」となり、下位者は「舎弟分」になりました(*1)。
「五厘下がり」「四分六」「七三」「二分八」と呼ばれたのが「格差のある擬制的兄弟(兄弟分)」に該当しました(*2) (*3)。
五厘下がりは、兄役が「五分五厘」(5.5/10)の力を持ち、一方弟役が「四分五厘」(4.5/10)の力を持つという兄弟関係でした(*2)。数字の差から、兄役が「上の立場」であることが分かります。五厘下がりの場合、兄役は弟役を「兄弟」、弟役は兄役を「兄貴」と呼びました(*2)。
四分六は、兄役が「六分」(6/10)の力を持ち、一方弟役が「四分」(4/10)の力を持つという兄弟関係でした(*2)。数字の差から、兄役が「上の立場」であることが分かります。四分六の場合、兄役は弟役を呼び捨てで呼び、弟役は兄役を「兄貴」と呼びました(*2)。五厘下がりでは、弟役は「兄弟」と呼ばれていました。弟役に対する呼び方の違いから、五厘下がりに比し、四分六では「格差」が広がっていることが読み取れます。
七三は、兄役が「七分」(7/10)の力を持ち、一方弟役が「三分」(3/10)の力を持つという兄弟関係でした(*2)。数字の差から、兄役が「上の立場」であることが分かります。弟役は兄役を「親父さん」と呼びました(*2)。四分六では、兄役は「兄貴」と呼ばれていました。兄役に対する呼び方の違いから、四分六に比し、七三では「格差」が広がっていることが読み取れます。
ヤクザ業界では「七三の兄弟関係」は実質「親分-子分の関係」を意味しました(*2)。つまり七三における弟役の者は、実質「二人の親分」(実際の親分、七三の兄役)を持つことになったのです。
二分八は、兄役が「八分」(8/10)の力を持ち、一方弟役が「二分」(2/10)の力を持つという兄弟関係だったと考えられます。二分八の兄弟関係も実質「親分-子分の関係」を意味したと考えられます。
ちなみに親子盃は「九一の盃」でした(*3)。つまり親役が「九分」(9/10)の力を持ち、一方子役が「一分」(1/10)の力を持つという親子関係だったと考えられます。
<引用・参考文献>
*1 『現代ヤクザ大事典』(実話時代編集部編、2007年、洋泉社), p91
*2 『ヤクザ大全 その知られざる実態』(山平重樹、1999年、幻冬舎アウトロー文庫), p99-100
*3 『現代ヤクザ大事典』, p106
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