ヤクザ業界での「上下分離」とは

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 鉄道事業では「上下分離」と呼ばれる手法があります(*1)。2009年12月富山県富山市で開業した富山ライトレール環状線は「上下分離」手法を用いました(*1)。地方自治体側の富山市が線路等の「インフラ」を整備する一方、鉄道会社側の富山地方鉄道が「運行」を担いました(*1)。この場合インフラが「下」、運行が「上」に該当します。上下分離では鉄道会社側は地方自治体側から「インフラ」を借りて(使用料を払って)、運行ビジネスを行う形をとります(*1)。鉄道会社側の長所としては線路建設等の巨額の費用負担がないことが挙げられます。

 ヤクザ業界では縄張り運営において「上下分離」に似た手法がとられてきました。関東地方では「貸しジマ」という縄張りの貸借制度がありました(*2)。貸しジマとは、縄張りの所有組織(A組)が他組織(B会)に縄張りの一部を貸し出す制度のことでした(*2)。A組が「大家(オーナー)」、B会が「店子(テナント)」となりました。店子のB会はA組に対し「地代」(縄張りの使用料)を払いました(*2)。「上下分離」をあてはめると、大家側のヤクザ組織が「下」、店子側のヤクザ組織が「上」に該当します。ちなみに貸し出した縄張りエリアも「貸しジマ」という言葉で言い表されました(*3)。

 またヤクザ組織と半グレ集団の関係においても「上下分離」の概念をあてはめることができます。例えばヤクザ組織許可の下での半グレ集団の違法領域ビジネスは「上下分離」に該当するでしょう。過去においてはヤクザ組織が独占していた違法領域ビジネスを、半グレ集団に委託する形です。「上下分離」をあてはめると、「違法領域のインフラ」(縄張り等)を持つヤクザ組織が「下」、ビジネス代行側の半グレ集団が「上」に該当します。

 ヤクザ組織が半グレ集団に委託する背景には、ヤクザ組織を取り巻く法環境が年々厳しくなっていることがあります。 2010年から「暴力団排除条例」は各都道府県で施行され(*4)、翌2011年10月に全ての都道府県で施行されるに至りました(*5)。また2015年8月以降の山口組分裂を巡る暴力事件により、2020年1月7日以降、山口組と神戸山口組の両組織は「特定抗争指定」とされ、指定された「警戒区域」内では構成員5人以上の集合が禁止となりました(*6)。警戒区域で5人以上集まった場合、該当の構成員は検挙対象となりました(*6)。

 ヤクザ組織の活動範囲は狭まっています。ヤクザ組織の構成員は日常生活レベルで不自由を余儀なくされており、資金獲得活動においても過去に比べ難易度は高まっています。自ずとヤクザ組織は半グレ集団を活用していくしかないのです。

<引用・参考文献>

*1 『鉄道と政治』(佐藤信之、2021年、中公新書), p253-255

*2 『ヤクザ500人とメシを食いました!』(鈴木智彦、2013年、宝島SUGOI文庫), p224-227

*3 『戦後ヤクザ抗争史』(永田哲朗、2011年、文庫ぎんが堂), p302

*4 『教養としてのヤクザ』(溝口敦+鈴木智彦、2019年、小学館新書), p140

*5 『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(伊藤博敏、2016年、小学館文庫),p353

*6 『週刊実話』2020年1月23日号,p32-33p

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