バイカーギャングと違法薬物ビジネス

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 バイカーギャングは違法薬物ビジネスにおける「製造」「輸送」「流通」の3領域に、程度の差はあるものの、関与してきました。製造領域においてバイカーギャングは主に覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)を扱っていました。

 1960年代後半以降アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s  Angels)は、フェンサイクリジンという薬物を違法製造していきました(*1)。後に違法薬物市場でフェンサイクリジンの需要が減少すると、ヘルズ・エンジェルスは代替としてメタンフェタミンの違法製造を始めていきました(*1)。

 メタンフェタミンと同じ神経興奮薬物のコカインの場合、植物コカ(コカノキ)の葉が原料となります(*2)。500gのコカインを作るのに、約300kgのコカの葉が必要といわれています(*2)。違法薬物市場への流通目的でコカインを製造する場合、植物コカの大量栽培が必要になります。国土が広いアメリカ合衆国においても、「植物コカの大量栽培」は露見しやすいです。一方メタンフェタミン製造であれば、一定の広さを持つ施設内で製造可能です。

 ちなみに日本の場合、1951年覚醒剤取締法制定により覚醒剤の製造は「違法」になった後(*3)、製造時の異臭対策の難しさから国内で覚醒剤はほとんど作られませんでした(*4)。狭い国土の日本では、人の密接する地域では異臭で即露見し、人里離れた地域では逆に注目を浴びることもあり(*4)、国内製造は難しかったようです。

 オーストラリアでは1980年代前半からヘルズ・エンジェルスのメルボルン支部の一派がアンフェタミン(amphetamine:覚醒剤の一種)を違法製造していきました(*5)。該当の一派はアメリカ合衆国のヘルズ・エンジェルスから「覚醒剤の製造レシピ」をもらっていたのです(*5)。1980年代後半以降は「ブラック・ウーランズ」(Black Uhlans)というオーストラリア系バイカーギャングがオーストラリア内におけるアンフェタミンの密造及び密売を仕切りました(*6)。

 輸送面においてもバイカーギャングは関与してきました。1990年代後半ヘルズ・エンジェルスのイギリス勢と南アフリカ勢は協同し、マリファナ(乾燥大麻)をイギリスに密輸していました(*7)。両者の密輸チームは南アフリカで仕入れたマリファナを輸出用の錬鉄製家具の中に隠すなどした上で、イギリスに送っていたのでした(*7)。

 ヘルズ・エンジェルスのヨーロッパ勢は「オランダ領キュラソー→オランダ本国」の旅客便等を使い、南米のコカインをヨーロッパに密輸していました(*8)。2003年以前オランダ領キュラソー→オランダ本国の旅客便の荷物チェックは緩かったことが背景にあります(*8)。

 流通の領域でも、バイカーギャングは様々に関与していました。ニュージーランドのバイカーギャング業界では「バイカー連邦」(the Bikers’Federation)等の同盟団体がありました(*9)。同盟参加組織は、同盟ネットワーク(組織間ネットワーク)に基づく「流通経路」を利用することができました(*9)。おそらく同盟参加組織は、同盟内の他組織が実効支配するエリアの経路も利用できるようになったと推測されます。結果、販売エリアが広がったと考えられます。

 違法薬物の購入場所(小売り市場)として、名がよく挙がるのがナイトクラブです。バイカーギャングはナイトクラブを支配下に収めたがります。オーストラリア系バイカーギャング「レベルズ」(Rebels)は1997年時、シドニーのナイトクラブ「ブラックマーケット・カフェ」を支配下に置いていました(*10)。

 ドイツのバイカーギャングはナイトクラブに対し「用心棒サービス」(警備サービス)を提供していました(*11)。ドイツのナイトクラブ内では「クラブ側の売人」もしくは「バイカーギャング側の売人」によって違法薬物が販売されていました(*11)。ゆえにバイカーギャングから派遣された用心棒はナイトクラブ内での違法薬物売買を取り締まりまることはせず、「黙認」していました(*11)。

 もちろん用心棒が未許可の売人を見つけた際、容赦なく制裁を加えていたことは想像に難くありません。また客として来店した他組織メンバーの監視も用心棒の業務だったはずです。用心棒料金の徴収、クラブ内での違法薬物販売等、ドイツのバイカーギャングにとってナイトクラブは「重要な資金獲得源」であったことが分かります。

 ニュージーランド系バイカーギャング「ハイウェイ61」(Highway61)(*12)のある支部は、1990年代初期、違法薬物の販売店(もちろん違法)を運営していました(*13)。ハイウェイ61は「違法薬物の店舗ビジネス」まで手掛けていたのです。

<引用・参考文献>

*1 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p40-42

*2 『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』(ロベルト・サヴィアーノ著、関口英子/中島知子訳、2015年、河出書房新社), p105-106

*3『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書), p86-87

*4 『ヤクザ500人とメシを食いました!』(鈴木智彦、2013年、宝島SUGOI文庫), p126

*5 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p108-110

*6 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p122-124

*7 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p287-288

*8 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』, p224-225

*9 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』(Jarrod Gilbert,2021,Auckland University Press), p185-186

*10 news.com.auサイト「Life in Supermax and the Hellfire massacre: Kon Georgiou tells all」(Candace Sutton,2021年8月8日)

*11 『The Fat Mexican: The Bloody Rise of the Bandidos Motorcycle Club』(Alex Caine,2010,Vintage Canada), p152

*12 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』, p88

*13 『Patched: The History of Gangs in New Zealand』, p187

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