メキシコ麻薬カルテルの縄張り

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 メキシコ麻薬カルテル業界において縄張りは「プラサ」(Plaza)と呼ばれます(*1) (*2)。違法薬物の輸送役はアメリカ合衆国に持ち込む際、最終的に「アメリカ合衆国との国境地域(メキシコ領土)」を通ることになります(*1)。メキシコ麻薬カルテルにとって「国境地域」は死活的に重要です。

 アメリカ合衆国と接しているメキシコ側の州は、西側からバハ・カリフォルニア州、ソノーラ州、チワワ州、コアウイラ州、ヌエバ・レオン州、タマウリパス州の6つです。ティファナ市(バハ・カリフォルニア州)、メヒカリ市(バハ・カリフォルニア州)、シウダー・フアレス市(チワワ州)、レイノサ市(タマウリパス州)、マタモロス市(タマウリパス州)などの国境(メキシコ-アメリカ合衆国)地域の主要都市には、プラサが設定されています(*2)。

 プラサ管理者のカルテルは、自陣のプラサ内を通過する他カルテルから「通行料」を徴収できます(*2)。プラサの通行料は「デレッチョ・デ・ピソ」(derecho de piso)と呼ばれます(*2)。他カルテルは違法薬物や盗品等の輸送でプラサを通過する際、管理者のカルテルに対し、「デレッチョ・デ・ピソ」を払いました(*2)。カルテルが合法領域の商売人から徴収する金(日本の「ミカジメ料」に相当)も「デレッチョ・デ・ピソ」と呼ばれました(*3)。

 プラサ管理者のカルテルも、違法薬物を自ら密輸する際、警察組織及び軍に金を支払っていました(*3)。一方、プラサ管理者のカルテルは「警察及び軍に対する支払い金」の負担を「通過する組織」に求めました(*3)。プラサ管理者のカルテルは、「密輸事業に関する負担金の徴収」という形で、デレッチョ・デ・ピソを徴収していたのです。

 またプラサ管理者のカルテルは、プラサ内における違法領域の活動者に対し、違法収益金の一部を徴収していました(*2)。その徴収金(いわば上納金)は「パガー・プラサ」(pagar plaza)と呼ばれました(*2)。

 国境地域以外では、港湾都市や内陸部の要衝都市でもプラサは設定されていました(*2)。港湾都市や内陸部の要衝都市も「違法薬物の輸送経路」に含まれたからだと考えられます。

 プラサのある港湾都市として、クリアカン市(シナロア州)、マサトラン市(シナロア州)、アカプルコ市(ゲレーロ州)、ラサロ・カルデナス市(ミチョアカン州)、タンピコ市(タマウリパス州)、コアツァコアルコス市(ベラクルス州)、ベラクルス市(ベラクルス州)等があります(*2)。クリアカン市(シナロア州)、マサトラン市(シナロア州)、アカプルコ市(ゲレーロ州)、ラサロ・カルデナス市(ミチョアカン州)は太平洋側の港湾都市です。一方、タンピコ市(タマウリパス州)、コアツァコアルコス市(ベラクルス州)、ベラクルス市(ベラクルス州)はメキシコ湾側の港湾都市です。

 内陸部でプラサのある都市としては、モンテレイ市(ヌエボ・レオン州)、グアダラハラ市(ハリスコ州)等があります(*2)。

 プラサの形態は1940年代からありました(*2)。後にミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルド(Miguel Ángel Félix Gallardo)が、収監中にも関わらず、「アメリカ合衆国との国境地域(メキシコ領土)」等のプラサを「再編成」しました(*2)。

 プラサ再編成前の1989年4月ミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルドは逮捕されていました (*2)。

  収監中のミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルド(*4)は1989年夏(*5)、アカプルコ市にて会議を開催(各メキシコ麻薬カルテルのトップを徴集)、連邦司法警察のギレルモ・ゴンザレス・カルデローニ(Guillermo González Calderoni)将軍の仲介のもと、プラサを再編成しました(*2) (*4)。

  上記から収監中にも関わらずミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルドには「国境地域に関する縄張りの編集権」があったことが分かります。また連邦司法警察のギレルモ・ゴンザレス・カルデローニ将軍がプラサ再編成に関与していたことから、当時警察組織と麻薬カルテルが癒着していたことも分かります。

 ミゲル・アンヘル・フェリックス・ガジャルドの「編集」により、プラサの主は、以下のようになりました(*2)。

【単独都市のプラサ主】

・ティファナ市(バハ・カリフォルニア州国境地域)

ヘスス・“エル・チュイ”・ラブラ・アビレス(Jesús “El Chuy”Labra Avilés)

・テカテ市(バハ・カリフォルニア州国境地域)

ホアキン・“エル・チャポ”・グスマン・ロエラ(Joaquin “El Chapo”Guzmán Loera)

・メヒカリ市(バハ・カリフォルニア州国境地域)

ラファエル・“エル・チノ”・チャオ・ロペス(Rafael“El Chino”Chao López)

・サン・ルイス・リオ・コロラド市(ソノラ州国境地域)

ヘスス・ヘクトル・ルイス・ “エル・グエロ”・パルマ・サラザール(Jesús Héctor Luis “El Güero”Palma Salazar)

【都市間のプラサ主】

ノガレス市(ソノラ州北部国境地域)-エルモシージョ市(ソノラ州中央部)間

エミリオ・キンテーロ・パヤン(Emilio Quintero Payán)

・シウダー・フアレス市(チワワ州国境地域)-ヌエボ・ラレド市(タマウリパス州国境地域)間

ラファエル・アギラール・グアハルド(Rafael Aguilar Guajardo)

・ヌエボ・ラレド市(タマウリパス州国境地域)-マタモロス市(タマウリパス州国境地域)間

ガルフ・カルテルのフアン・ガルシア・アブレゴ(Juan García Ábrego)

【州のプラサ主】

・シナロア州

イスマエル・“エル・メイヨ”・ザンバダ(Ismael “El Mayo”Zambada)、バルタサル・ディアス・べラ(Baltazar Díaz Vera)

<引用・参考文献>

*1 『メキシコ麻薬戦争 アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』(ヨアン・グリロ著、山本昭代訳、2014年、現代企画室), p199

*2 『Mexican Cartels: An Encyclopedia of Mexico’s Crime and Drug Wars』(David F. Marley,2019,Abc-Clio Inc), p248-249

*3 『Mexican Cartels: An Encyclopedia of Mexico’s Crime and Drug Wars』, p91-92

*4 『メキシコ麻薬戦争 アメリカ大陸を引き裂く「犯罪者」たちの叛乱』, p115

*5 『Mexican Cartels: An Encyclopedia of Mexico’s Crime and Drug Wars』, p115

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