ンドランゲタの2次団体

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 イタリア系アウトロー組織「ンドランゲタ」(‘Ndrangheta)は、1次団体の組織形態として「連合型」をとってきました(*1)。ンドランゲタにおいて「1次団体」と「各2次団体」の間に垂直的関係(支配・被支配関係)はありません(*1)。ンドランゲタでは「2次団体の集合体」が1次団体として機能していると考えられます。

 ンドランゲタにおいて2次団体に該当すると考えられるのが「ンドリーナ」(‘ndrina)です(*1)。ンドリーナは血縁者(family)を基に形成されています(*1)。有名なンドリーナとしては「ペッシェ一・ファミリー」(‘ndrina Pesce)、「マンキューソ・ファミリー」(‘ndrina Mancuso)などがあります(*2)。ンドリーナのトップは「カピ・バストーネ」(capi-bastone)と呼ばれます(*3)。

 またンドリーナは「氏族」(clans)とも言い表されます(*4)。ンドランゲタの文脈におけるclansという言葉はンドリーナを意味すると考えてよいでしょう。

 またンドランゲタには複数のンドリーナにより構成された「連合会」(association)があります(*1)。連合会は「ロカーレ」(locale)と呼ばれています(*1)。同じ地方自治体(都市)で活動するンドリーナが集う形で、ロカーレは結成されています(*1)。

 ロカーレの存在意義は、カラブリア州(ンドランゲタ本拠地)外の進出都市においてもンドランゲタの影響力を行使し続けることです(*1)。例えば進出先における地元アウトロー組織との交渉場面では、各ンドリーナの個別対応よりも、「進出都市内の全ンドランゲタ勢力」であるロカーレによる対応の方が交渉を有利に運べるはずです。ロカーレは勢力集結の「装置」だったのです。各ロカーレは「locale di ●●(都市名)」の形で表されます(*3)。

 ドイツではシンゲン(Singen)市、リールラシンゲン町(Rielasingen)、ラドルフツェル(Radolfzell)市、エンゲン (Engen)市、ラーベンスブルク市(Ravensburg)、フランクフルト市(Frankfurt)の都市において、各ロカーレ(例 locale di Singen、locale di Rielasingen等)がありました(*5)。ンドリーナは進出先のロカーレに属する為、複数都市に進出した場合、複数のロカーレに属することになりました(*3)。

 ちなみにシンゲン市(Singen)、リールラシンゲン町(Rielasingen)、ラドルフツェル(Radolfzell)市、エンゲン市 (Engen)は「バーデン=ヴュルテンベルク州コンスタンツ郡」に属します。ラーベンスブルク市は「バーデン=ヴュルテンベルク州ラーベンスブルク郡」に属します。フランクフルト市はヘッセン州に属します。

 カラブリア州レッジョ・カラブリア県ロザルノにもロカーレがあります(*6)。ロザルノのロカーレは別名「ソチエタ」(Società)とも呼ばれます (*6)。ロザルノのロカーレ(ソチエタ)は、ピロマリ-モレ・ファミリー(Piromalli-Molé)、ベロッコ・ファミリー(Bellocco)、ペッシェ・ファミリー(Pesce)、オッペディサーノ・ファミリー(Oppedisano)のンドリーナで構成されています(*6)。

 ピロマリ-モレ・ファミリーは主にジョイア・タウロとサン・フェルディナンドの街で、ベロッコ・ファミリーは主にサン・フェルディナンドの街で活動しています(*6)。ジョイア・タウロとサン・フェルディナンドはともに、レッジョ・カラブリア県内にあります。ペッシェ・ファミリーとオッペディサーノ・ファミリーは、ロカーレのあるロザルノで活動しています(*6)。レッジョ・カラブリア県とヴィボ・ヴァレンツィア県の「県境付近」では4団体は協力的に活動しています(*6)。

 ロカーレ内には、ンドリーナ同士による「横のライン」がある一方で、「縦のライン」もあります。ロカーレ内の縦のラインを形成しているのが「主要グループ」(major societies)と「準主要グループ」(minor societies)です(*1)。ンドランゲタの上級構成員は「主要グループ」に属し、下級構成員は「準主要グループ」に属します(*1)。つまり「階級」によるグループ化がロカーレ内では行われているのです。

 ロカーレのトップに就いた者は「カポ・ロカーレ」(capo-locale)、ナンバー2の者は「マストロ・ディ・ジョルナータ」(mastro di giornata)と呼ばれました(*7)。

 違法領域の収益活動において各ンドリーナは基本的に独立しています(*8)。しかしながらロカーレに所属している性格上、他ンドリーナとの協調が時々求められます(*8)。ンドランゲタの主要収益源は違法薬物ビジネス(特にコカイン)です(*8)。

 各ンドリーナにはコカイン生産地・南米で活動するブローカーや麻薬組織等とのパイプがあります(*8)。各ンドリーナは南米でコカインを仕入れ、ヨーロッパに密輸することで収益を上げています(*8)。

 ンドランゲタにとって自国通貨がリラ(イタリアの旧通貨)ではなくユーロであることは、コカインをヨーロッパに密輸する際、メリットになっていると考えられます。イタリアは2002年、リラからユーロに通貨を切り替えました(*9)。

 ユーロは国際的な決済通貨として機能しています。おそらく各ンドリーナは、南米側に対する決済時、通貨であればユーロもしくは米ドル等で払っていると考えられます(もちろん物々交換で決済をしている可能性もあります)。イタリアやドイツなどはユーロを通貨として採用しており、各ンドリーナは地元の違法ビジネスではユーロで徴収していると考えられます。

 ンドランゲタはユーロを沢山持っているのです。もし南米側が米ドルでの受け取りを望んでも、ユーロであれば米ドルとの交換がしやすい為、ンドランゲタにとって大きな問題にはならなかったと考えられます。

 ンドランゲタによるコカイン密輸方法の1つとしては、海上コンテナ貨物への隠匿がありました(*8)。該当コンテナ貨物の発荷主と受荷主の両者とも、密輸に関与していなかった場合がありました(*8)。発荷主のもとから貨物が離れた後に、ンドランゲタ側がコカインを貨物に隠したのです。ンドランゲタはアメリカ大陸側の港湾に「隠匿作業人」を配置しています(*8)。港湾内のコンテナ貨物にコカインを隠すのが「隠匿作業人」の業務になります(*8)。各ンドリーナの役割は「隠匿作業人」の差配でした(*8)。

 海上コンテナ貨物(隠匿コカインを載せた)の主な到着港はジョイア・タウロ港(イタリアカラブリア州)でした(*8)。ンドランゲタは複数の航路を「密輸経路」として利用していました(*8)。ンドランゲタはコカイン供給網の複線化を図っていたのです。

 またンドランゲタは「南米→ヨーロッパ」の供給に加えて、オーストラリアやアフリカのトーゴにもコカインを供給してきました(*10)。カナダのンドランゲタ「シデルノ・グループ」(Siderno Group)は北米を拠点に活動する一方、オーストラリアでは大麻取引に関与していました(*10)。

 日本の国際貨物輸送業界には「フォワーダー」(forwarder)と呼ばれる業者がいます(*11)。フォワーダーは荷主から貨物輸送業務を受託しています(*11)。法律ではフォワーダーは「利用運送事業者」と定義されています(*11)。一方フォワーダーは自ら輸送手段を持っていない為、船会社や航空会社等の輸送業者に輸送業務を委託します(*12)。フォワーダー独自の業務としては「船腹スペースの手配」「通関手続き」「貨物混載(行先ごとに荷物をまとめること)」「コンテナ詰め」等があります(*12)。

 フォワーダーにとって「輸送手段」を持っていないことは、メリットにもなっています。固定の輸送手段を持たないことによって、フォワーダーは様々な輸送経路を作ることができるからです(*12)。

 フォワーダーへの委託で荷主は、多くの作業を伴う輸出業務から解放されます。一方輸送業者は荷主からの受付業務を省くことができます。「荷主」と「輸送業者(船会社ら)」の仲介者としての役割を果たしているのがフォワーダーといえます。

 ンドランゲタの関与する違法薬物ビジネス(例えばコカインビジネス)において荷主に該当するのが「南米のコカイン生産組織」で、フォワーダーが「ンドランゲタ」といえます。ンドランゲタにより南米のコカイン生産組織は「煩雑な密輸業務」をせずとも、収益を上げることができます。逆にンドランゲタ側はコカイン生産業務をせずに、密輸業務特化にてコカインビジネスで収益を上げることができます。

<引用・参考文献>

*1 『‘Ndrangheta: The Glocal Dimensions of the Most Powerful Italian Mafia』(Anna Sergi&Anita Lavorgna,2016,Palgrave Macmillan), p25

*2 『‘Ndrangheta: The Glocal Dimensions of the Most Powerful Italian Mafia』, p27

*3 『Chasing the Mafia: ‘Ndrangheta, Memories and Journeys』(Anna Sergi,2022,Bristol University Press),p17

*4 『‘Ndrangheta: The Glocal Dimensions of the Most Powerful Italian Mafia』, p13

*5 『‘Ndrangheta: The Glocal Dimensions of the Most Powerful Italian Mafia』, p59-60

*6 『Chasing the Mafia: ‘Ndrangheta, Memories and Journeys』,p166

*7 『Chasing the Mafia: ‘Ndrangheta, Memories and Journeys』,p118

*8 Anna Sergi.(2015). Family Fortunes: Calabrian mafia extends international reach. Jane’s Intelligence Review, September.

*9 『エリア・スタディーズ  現代イタリアを知るための44章』「台所は火の車 節約・貯蓄・家庭経済」(田中智子、2005年、明石書店),p118

*10 Anna Sergi.(2012). Family influence:Italian mafia group operates in Australia. Jane’s Intelligence Review, August.

*11 日本通運サイト「ロジスティクス用語集 フォワーダー」(https://www.nittsu.co.jp/support/words/ha/forwarder.html

*12 『基本ロジスティクス用語辞典 〔第3版〕』「フォワーダー」(三木楯彦、2009年、白桃書房),p161-162

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