関税とは、物品輸入時に支払う税金のことです(*1)。つまり「輸入業者」が支払う税金といえます。日本の関税では課税方式として「従価税」「従量税」等がありますが、ほとんど従価税がとられています(*1)。従価税では「商品価格」を基に課税額が決まります。商品価格が高いほど課税額は高く、商品価格が低いほど課税額は低くなります。
中には関税制度を悪用し、金を詐取する者がいます。エセックス大学（イギリス）で犯罪学を教えるアンナ・セルジ（Anna Sergi）はカナダ・モントリオール港での「食品偽装」を用いた詐取方法を例示しています(*2)。
下記、アンナ・セルジの例です(*2)。
- モントリオールのアウトロー組織はアメリカ合衆国内で高級鶏肉を購入します。
- 次にモントリオールの組織は購入した鶏肉をアメリカ合衆国からカナダに取り寄せます。アメリカ合衆国-カナダ国境通過時、モントリオールの組織は「輸入者」になる為、関税を税関に支払います。同時に「鶏肉の最終届け先はアフリカであり、カナダは通過するに過ぎない」という内容の書類も提出します。つまり「本当の輸入者」はアフリカの業者になる為、モントリオールの組織側は「関税の払い戻し」の対象になるということです。後にモントリオールの組織側は払い戻しを受けます。
- 最後にカナダからアフリカに輸送する前「高級鶏肉」は「低級鶏肉」に差し替えられます。この差し替えが食品偽装になります。結果、アフリカには低級鶏肉が送られ、高級鶏肉はカナダ内で転売されます。
上記例を補足する為、取扱いの高級鶏肉を、仮に重量1,000kg、価格6,000ドル（1kgあたり6ドル）とします。また差し替わった低級鶏肉を重量1,000kg、価格3,000ドル（1kgあたり3ドル）とします。鶏肉の関税は「10%の従価税」とします。また便宜上、全ての取引はアメリカドルで決済されていることにします。
【食品偽装する場合の利益】
モントリオールの組織は高級鶏肉購入の為に6,000ドルをアメリカ合衆国の店に払い、アメリカ合衆国-カナダ国境通過時関税600ドルを税関に払います。また差し替え用の低級鶏肉購入の為に、カナダの店に3,000ドルを払います。この3点のやりとりにおいてモントリオールの組織は9,600ドルの損失です。
高級鶏肉（仕入れ費用6,000ドル）はカナダの業者に7,000ドル、低級鶏肉（仕入れ費用3,000ドル）はアフリカの業者に4,000ドルで売れたとします。またモントリオールの組織は税関から600ドルの払い戻しを受けます。3点のやりとりでの収益は11,600ドルになります。11,600ドルからさきほどの9,600ドルを引くと、2,000ドルになります。2,000ドルの利益がモントリオールの組織に残ります。
文脈から判断するに、元々カナダのある会社が低級鶏肉をアフリカの業者に販売しており、それをアウトロー組織が悪用した事例だと推測されます。例えばカナダのある食品会社がカナダ国内にて3,000ドルで低級鶏肉を仕入れ、アフリカの業者に4,000ドルで販売し、1,000ドルの利益を得ているような場合です。
一般企業が不正行為（食品偽装）なしで、先述の高級鶏肉と低級鶏肉の販売を実施した場合、利益はどうなるのでしょうか。高級鶏肉の販売先は「カナダ国内」、低級鶏肉の販売先は「アフリカ」です。
【食品偽装しない場合の利益】
カナダの食品会社は高級鶏肉購入の為に6,000ドルをアメリカ合衆国の店に払い、アメリカ合衆国-カナダ国境通過時関税600ドルを税関に払います。また輸出用の低級鶏肉購入の為に、カナダの店に3,000ドルを払います。この3点のやりとりにおいてカナダの食品会社は9,600ドルの損失です。
高級鶏肉（仕入れ総費用6,600ドル）はカナダの業者に7,000ドル、低級鶏肉（仕入れ費用3,000ドル）はアフリカの業者に4,000ドルで売れたとします。輸入した高級鶏肉はカナダ国内で転売された為、カナダの食品会社に関税の払い戻しはありません。2点の取引での収益は11,000ドルになります。11,000ドルから先ほどの9,600ドルを引くと、1,400ドルになります。1,400ドルの利益がカナダの食品会社に残ります。
「食品偽装する場合の利益」が2,000ドルであるのに対し、「食品偽装しない場合の利益」は1,400ドルであり、600ドル少ないです。「関税払い戻し」の有無が両者の差をつけているのです。
＜引用・参考文献＞
*1 『基本ロジスティクス用語辞典 〔第3版〕』「関税」（三木楯彦、2009年、白桃書房）,p35
*2『The Port-Crime Interface: A Report on Organised Crime & Corruption in Seaports』（Anna Sergi，2020，Independently published）,p122-123
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