スウェーデン裏社会におけるアメリカ合衆国系バイカーギャングの位置づけ

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 北欧のスウェーデンは1990年代前半以降、海外バイカーギャングの「来襲」を受けました (*1)。主にアメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)と「バンディドス」(Bandidos)がスウェーデン国内で版図を拡げていきました(*1)。

 ヘルズ・エンジェルスの場合、1990年スウェーデン最南部の街・マルメで活動していたバイカーギャング「ダーティー・ドゥラクルズ」(the Dirty Draggles)を傘下に収めることで、スウェーデンに進出を果たしました(*2)。一方バンディドスは1994年、地元組織を傘下に収める形で、スウェーデンに進出しました(*2)。両者とも「地元組織を傘下に収める方法」で進出したことが分かります。

 スウェーデン国内におけるアメリカ合衆国系バイカーギャングの隆盛に対して、衰退していったのが「ユーゴスラビア・マフィア」(Yugoslavian mafia)と呼ばれた組織でした(*1)。当時のユーゴスラビア・マフィアは、内部抗争により弱体化していました(*1)。

 また1996年にはスウェーデンで初のウルトラス(ultras)がマルメで結成されました(*3)。ウルトラスとは、フットボールにおける「過激派サポーターグループ」のことです。1996年マルメで結成されたウルトラスの組織名は「トゥループス・オブ・ブルー96」でした(*3)。1990年代のスウェーデンではアメリカ合衆国系バイカーギャングの隆盛、ユーゴスラビア・マフィアの衰退、ウルトラスの誕生があり、裏社会の勢力図が変わっていったのです。

 スウェーデン国内の他組織は資金獲得目的で、アメリカ合衆国系バイカーギャングとの「パイプ作り」に励みました(*1)。また他組織は、自身の組織形成において、アメリカ合衆国系バイカーギャングの「組織構造(体系)」を参照しました(*1)。つまり他組織は「組織構造」の移植を試みたのです。

 しかし「組織構造」の移植は、簡単ではありませんでした。2000年代前半、スウェーデン国内のストリートギャングはアメリカ合衆国系バイカーギャングの「組織構造」を模倣しましたが、ほとんど失敗しました(*1)。結果多くのストリートギャングは、一個人の強いリーダーシップに頼る方法で組織を運営していきました(*1)。

 版図の拡大や他組織に対する影響度の大きさから、スウェーデン裏社会においてアメリカ合衆国系バイカーギャングは優位に立っていったことが考えられます。

<引用・参考文献>

*1 『The Stockholm Gang Model:PANTHER ~ Stockholm Gang Intervention and Prevention Project, 2009-2012』「The History of Swedish Gangs」(Fredrik Leinfelt & Amir Rostami,2012),p83-84

*2 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p243

*3 『ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー』(ジェームス・モンタギュー著、田邊雅之訳、2021年、カンゼン),p362-363

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