ショバ割りにおけるコロビとサンズンの格差

  • URLをコピーしました!

  テキヤ組織による露店営業は、主に「コロビ」「サンズン」の2形態に分かれました(*1)。コロビとは、屋台を持たず地面に敷いたゴザの上に商品を並べ、口上付きで販売する営業形態でした(*1)。一方サンズンとは、屋台で販売する営業形態で、口上なしの場合が多かったです(*1)。

 コロビの特長の1つとして「移動のしやすさ」がありました(*2)。屋台を持たない為、コロビの露店商は各地を移動しやすかったのです(*2)。テキヤ業界では「極東」「飯島」「寄居」「桝屋」「丁字家」一門の源流は、コロビ系のテキヤ勢力でした (*2)。

 神社の高市(たかまち)における露店配置決め(ショバ割り)(*3)において、サンズンには主に参道が割り当てられました(*4)。参道は、往来の盛んな経路である為、高い売上を見込める場所といえます。一方のコロビには、集客の見込めない場所が割り当てられることが多かったようです(*4)。ショバ割りにおいて、コロビとサンズンの間には格差があったことが考えられます。

 高市とは、社寺の祭礼や縁日に仮設される露店市のことでした(*5)。高市のほとんどは、1年ごともしくは1カ月ごとに開催された定期門前市でした(*5)。

 一方、臨時の催事における仮設露店市は「できたかまち」(出来たかまち)と呼ばれました(*6)。

 高市を仕切るテキヤ組織の親分は「庭主(にわぬし)」と呼ばれ、この庭主が露店配置の決定権を持っていました(*3)。

 先述の露店配置決めは「ショバ割り」以外に、「ミセワリ」(*7)、「テイタ割り」(*8)、「小間割り」(*9)とも呼ばれました。テイタ(手板)は各露店の配置図のことで、厚紙に描かれていました(*10)。厚紙に描かれる前までは、露店配置図は板に描かれていました(*10)。

 ちなみに、高市ではないですが、朝市の露店配置決めは「小間割(コマワリ)」と呼ばれました(*11)。

 出店者は庭主に場所代(通称:ショバ代)を払いました(*12)。各出店者の場所代は概ね、高市の総経費÷出店数で求められました(*12)。

 「長崎くんち」(諏訪神社の秋季大祭)では1977年まで長崎神農会(地元露店商の組織)が露店配置決めをしていました(*13)。長崎くんちは、10月7~9日の3日間、開催されていました(*13)。当時、長崎くんちの場所代は、1店舗あたり6千円でした(*13)。

 1977年時の長崎神農会の統計によれば「1名義当りの出店数」は3.7店舗でした(*14)。一人の露店商が平均して3.7店舗を出していたことになります。もしAという露店商が3店舗を出していたら、場所代の合計は1万8千円になりました。またBという露店商が4店舗を出していたら、場所代の合計は2万4千円になりました。

 1985年頃、北関東のM市の初市では、場所代は5千円でした(*15)。このM市の初市では1986年、地元のテキヤ組織が露店配置決めをしていました(*16)。

 2012年の情報では、テキヤ業界における関東の場所代は1万円(1日)、関西は1万5千円(1日)といわれていました(*17)。

 一方、庭主ではなく、警察組織が露店配置決めをする場合もありました。警察組織による露店配置決めは「サツ割り」と呼ばれました(*13)。

 昭和四十年代(1965~1974年)北海道全域では警察組織が高市において露店の配置決めをしていました(*18)。

 仙台の七夕祭りでも警察組織が露店の配置決めをしていました(*19)。

 先述の長崎くんちにおいても、後に長崎警察署が長崎神農会に代わり、抽選方式で露店配置決めを行いました(*20)。

 また警察組織は「申請の受付順」に出店場所を割り振る方法もとっていました(*19)。

<引用・参考文献>

*1 『ヤクザ大全 その知られざる実態』(山平重樹、1999年、幻冬舎アウトロー文庫), p51

*2 『新・ヤクザという生き方』「全丁字家誠心会芝山一家物語」(朝倉喬司、1998年、宝島社文庫), p224-225

*3『ヤクザに学ぶ 伸びる男 ダメなヤツ』(山平重樹、2008年、徳間文庫),p157

*4 『テキヤの掟 祭りを担った文化、組織、慣習』(廣末登、2023年、角川新書), p44

*5 『盛り場の民俗史』(神崎宣武、1993年、岩波新書), p44

*6 『生活史叢書3  てきや(香具師)の生活』(添田知道、1973年、雄山閣),p151,330

*7 『テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る』(厚香苗、2014年、光文社新書),p146

*8 『テキヤの掟 祭りを担った文化、組織、慣習』, p28

*9 『香具師はつらいよ』(北園忠治、1990年、葦書房),p20

*10 『盛り場の民俗史』, p47

*11 『「市」に立つ: 定期市の民俗誌』(山本志乃、2019年、創元社),p289-290

*12 『盛り場の民俗史』, p45

*13 『香具師はつらいよ』,p233

*14 『香具師はつらいよ』,p250-251

*15 『テキヤのマネー学』(監修:仲村雅彦、取材・構成:高橋豊、1986年、東京三世社),p14,25

*16 『テキヤのマネー学』,p26-32

*17『GEKIDAS 激裏情報@大事典vol.5』(激裏情報、2012年、三才ブックス), p82

*18 『香具師はつらいよ』,p258

*19 『テキヤのマネー学』,p56-57

*20 『香具師はつらいよ』,p241

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次