オーストラリアのノミ屋

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 オーストラリアにおいてもノミ屋、つまり「場外の違法賭博店(馬券売り場)」が営業していました(*1)。オーストラリアのノミ屋は「SPブックメーカー(bookmaker)」と呼ばれていました(*2)。SPとは「starting price」の略で、競馬場内の馬券売り場で設定された「オッズ(倍率)」の一種を意味しました(*3)。

 オーストラリアではSPブックメーカー業は昔からあり、1920年代以降に大きく成長しました(*4)。背景には当時、ラジオや電話の普及がありました(*5)。人々は競馬場に行かなくとも、ラジオで競馬中継を聴くことができ、電話で馬券を購入できようになったのです。

 SPブックメーカーは主に電話で受注していました(*2) (*5)。また1930年代にはホテルのバーでもSPブックメーカーは「注文」を受けていました(*5)。

 1960年代まではSPブックメーカーの担い手は主に競馬関係者や週末副業者でした(*6)。しかし1970年代はアウトロー組織がSPブックメーカー業を支配していきました(*6)。

 1964年以降、精算日は毎週金曜日になりました(*7)。SPブックメーカーの精算担当者は毎週金曜日に顧客を訪ね、精算(配当、徴収)をしていました(*7)。

 1970年代のSPブックメーカーは売上から平均10%の利益をとっていました(*2)。ニューサウスウェールズ州北部で摘発されたSPブックメーカーは年間1億ドルを売上げており、オーストラリア東部全域、パプアニューギニア、南太平洋を営業範囲としていました(*2)。つまり摘発されたSPブックメーカーは国外からの客にも対応していたのでした。

 大都市開催のレースでは人気の馬に賭け金が集中する為、小さいSPブックメーカーは配当金(払戻金)不足に陥る可能性がありました(*7)。ゆえに小さいSPブックメーカーは損失回避の為、大手SPブックメーカーに頼りました(*7)。

 おそらく小さいSPブックメーカーは、大手SPブックメーカーにおいて該当馬の馬券を「該当馬に賭けられた総額(例:1万ドル)」分、購入したと考えられます。つまり小さいSPブックメーカーは客から「該当馬に対する賭け」を総額1万ドル受けたものの、大手SPブックメーカーにおいて、その1万ドルを「該当馬の馬券購入」にあてたのではないでしょうか。これであれば、該当馬が勝った際に小さいSPブックメーカーは「大手SPブックメーカーから支払われる配当金」をもって、客に配当金を支払うことができます。理屈上、小さいSPブックメーカーの持ち出しはありません。

 ちなみに日本でも小さいノミ屋は損失回避策として、大手ノミ屋を頼りました(*8)。

 オーストラリアの行政側はSPブックメーカー対策として、1964年公営の「トータリゼーター運営委員会」(Totalisator Agency Board:TAB)を立ち上げました(*2)。同年TABの店(場外の合法馬券売り場)が営業を開始しました(*9)。つまりTABとは「場外合法馬券売り場の運営団体」であり、SPブックメーカーのライバルとなったのでした。

 ちなみにイギリスでは1961年に政府がノミ屋(ブックメーカー)を合法化しました(*10)。以降、旧ノミ屋はライセンスを行政から獲得し、税金を払えば、昔からの商売を「合法的」に行うことが可能になりました(*1)。つまりイギリス政府はノミ屋を「合法化領域」に取り込むことにしたのでした。

<引用・参考文献>

*1 『Gambling Cultures  Studies in history and interpretation』「ILLEGAL BETTING IN BRITAIN AND AUSTRALIA: CONTRASTS IN CONTROL STRATEGIES AND CULTURES」(David Dixon,2014,Routledge), p86-87

*2 『ORGANIZED CRIME:A Global Perspective』「Organized Crime in Australia: An Urban History」(Alfred W. McCoy,1986, ROWMAN & LITTLEFIELD PUBLISHERS),p260-263

*3 『Gambling Cultures  Studies in history and interpretation』「ILLEGAL BETTING IN BRITAIN AND AUSTRALIA: CONTRASTS IN CONTROL STRATEGIES AND CULTURES」, p97

*4 『SPORT:MONEY MORALITY AND THE MEDIA』「Sport as Modern Mythology: SP Bookmaking in New South Wales 1920-1979」(Alfred W. McCoy,1981, New South Wales University Press),p35

*5 『SPORT:MONEY MORALITY AND THE MEDIA』「Sport as Modern Mythology: SP Bookmaking in New South Wales 1920-1979」,p39-40

*6 『SPORT:MONEY MORALITY AND THE MEDIA』「Sport as Modern Mythology: SP Bookmaking in New South Wales 1920-1979」,p59-60

*7 『SPORT:MONEY MORALITY AND THE MEDIA』「Sport as Modern Mythology: SP Bookmaking in New South Wales 1920-1979」,p62

*8『裏経済パクリの手口99』(日名子暁、1995年、かんき出版),p103

*9『ORGANIZED CRIME:A Global Perspective』「Organized Crime in Australia: An Urban History」,p257

*10 『ギャンブリング害-貪欲な業界と政治の欺瞞-』(レベッカ・キャシディ著、甲斐理恵子訳、2021年、ビジネス教育出版社), p117

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