日本の「頼母子講」、南アフリカの「ストークベル」

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 日本には昔から「頼母子講」(たのもしこう)と呼ばれる相互扶助型の金融システムがありました(*1)。頼母子講のメンバーは、毎月一定額の拠出を求められました(*1)。仮にメンバーが10人、1人あたりの毎月拠出額が50万円だったとします。その頼母子講は毎月500万円(10人×50万円)を集金したことになります。集められた金(500万円)は、くじ引きなどでメンバーの1人に配当されました(*1)。

 頼母子講において「配当金獲得者」は次回以降、「配当金獲得の権利」を失いました(*1)。つまりメンバー全員に必ず配当金が行く仕組み(輪番制)に頼母子講はなっていました。メンバー全員に配当金が行き渡ったら、頼母子講は解散しました(*1)。例えばメンバー10人の頼母子講は10カ月で終了しました。

 各メンバーの収支は0円(支出500万円、収入500万円)でしたが、個人が一時的に大金(500万円)を確保できるという特長が頼母子講にはありました。また頼母子講ではメンバー間の「公平性」が担保されているのも特長の1つでした。頼母子講は別名「無尽」(むじん)とも呼ばれました(*1)。

 南アフリカの旧黒人居住区(townships)では「ストークベル」(stokvel)という相互扶助システムがあります(*2)。ストークベルは3人以上のメンバーで構成されなければなりません(*2)。ストークベルの三大原則として「信用」「輪番制」「秩序」があります(*2)。メンバーを新たに選ぶ際は「候補者の信用」が最優先されます(*2)。信用に欠ける人物はメンバーに迎えられないのです。ゆえにメンバーは主にメンバーの友人、家族、同僚等から構成されています(*2)。

 ストークベルは「金融システム」としても機能してきました(*3)。ストークベルの金融システムは輪番制を特徴としており、世界的には“rotating savings and credit associations”(日本語に訳すと「輪番制貯蓄と信用組合」)という名で知られています(*3)。

 ストークベルは、19世紀前半東ケープ州のイギリス人居住区において行われていた「牛の競売」(別名「品評会」:英語名stock-fairs)を源流とします(*2)。参加者の黒人農民達にとって品評会は人的交流及び情報交換の場として機能していました(*2)。

 ゆえに元々ストークベルは「コミュニティ」としての機能を果たしており、具体的には各メンバーが輪番制でホームパーティーを主催していました(*2)。ストークベルでは「非主催者のメンバー達」(客側)がホームパーティーの費用を賄うことになっていました(*2)。つまり「会費制パーティー」の形がとられており、主催者が一時的に大金を要することがないように設計されていたのです。

 非主催者メンバー達からの拠出金総額がパーティー費用を上回った場合、残額は銀行に預けられました(*2)。銀行預金の目的としては、預金利息からの収入がありました(*2)。メンバーの1人が大事な人を亡くした時は、預金の一部が銀行から引き出され、葬式費用等にあてられました(*2)。

 該当のメンバー(大事な人を亡くしたメンバー)は葬式費用を捻出する必要がないのです。所属先のストークベルが該当メンバーに出資した格好です。南アフリカでストークベルが金融システムとしても機能した一因には、黒人の多くが個人として金融機関を利用できなかった歴史がありました(*4)。

 ストークベルには様々なパターンがあります。例えば音楽愛好家達のストークベル(8人メンバー)では、各メンバーは毎月200ランドを拠出します(その月のホームパーティー主催者メンバーは拠出しません)(*5)。毎月1,400ランドが集まります。その月のホームパーティー主催者メンバーは事前に「1,400ランド分の音楽リスト」を拠出メンバー7人に提出します(*5)。拠出メンバー7人は1,400ランド分のCDを購入し、ホームパーティーで主催者にプレゼントするのです(*5)。この例のストークベルは、日本の頼母子講に近いです。

 またストークベルは秩序を重要視しており、集まりには毎回時間厳守での出席がメンバーには求められています(*2)。集まりの遅刻及び欠席、また拠出するのが遅れたメンバーには罰金が科せられます(*2)。

 多くのストークベルは1年毎に終了する形をとっており、1年毎に会計も締めています(*5)。

<引用・参考文献>

*1 『新版・現代ヤクザのウラ知識』(溝口敦、2006年、講談社+α文庫), p311-312

*2 『Shebeen Culture in South Africa: Shebeen Culture』(David Bogopa,2012, LAP LAMBERT Academic Publishing), p31-33

*3 Lindiwe Ngcobo and Joseph Chisasa.(2018). Success Factors and Gender Participation of Stokvels in South Africa. Acta Universitatis Danubius.Œconomica, 14(5).p217

*4 WG SCHULZE.(1997). The Origin and Legal Nature of the Stokvel (Part 1) . South African Mercantile Law Journal, 9.p18

*5『Shebeen Culture in South Africa: Shebeen Culture』,p34-35

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