419詐欺誕生の背景

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 世界的に知られている詐欺の1つに「419詐欺」があります(*1)。419詐欺の代表例としては、マネーロンダリング(資金洗浄)に関するものがあります(*1)。

 詐欺グループは「海外の政府関係者や軍人等」を名乗り、外国への不正送金(マネーロンダリングの一環)名目で「銀行口座の借用」を求め、対価として「送金額の一部」を提供するという話を持ちかけます(*1)。「政府関係者や軍人等の不正送金」という筋書きから、提供額が「大金」に設定されていることは想像に難くありません。持ちかけられた側(標的)にとっては、口座を貸すだけで、送金額の一部を受け取れるという「好条件の話」です。

 次に詐欺グループは「前払いの手数料」を要求し、指定口座に振り込ませようとします(*2)。名目は「組織内の工作」等です(*2)。手数料が振り込まれた後、詐欺グループはその金を持って、行方をくらまします(*2)。

 419詐欺の仕組みは、儲け話を持ちかけ、手数料名目で金を騙し取るというものです。419詐欺には「手数料さえ支払えば、儲けを確定できる」という心理が働くようになっています。419詐欺は人間の欲望を巧みについた手口といえます。419詐欺に類似した手口としては、「M資金」が挙げられます。「M資金」も419詐欺同様に、偽りの儲け話をネタに手数料を前払いさせて、金を騙し取る仕組みです(*3)。

 419詐欺の原型は1970年代のナイジェリアで生まれました(*2)。419詐欺という名称は「ナイジェリア刑法第四一九条の詐欺罪」に由来します(*2)。1970年代ナイジェリアの政治家や軍人の間では実際、外国への不正送金(マネーロンダリングの一環)が流行っていました(*2)。

 ルポライターの安田峰俊によれば、近年在日ベトナム人コミュニティ内における「地下銀行」では、運営者が自身の口座を用いて海外送金(家族への仕送り)を代行する仕組みがとられています (*4)。ベトナム人の依頼者にとってすれば、一般の銀行における送金手続きはハードルが高く(高い手数料、厳しいチェック等)、地下銀行は重宝されているといいます(*4)。近年日本の例ではありますが、外国への不正送金方法として「他者の銀行口座利用」は実際あるのです。

 1956年ナイジェリアのオロビリで石油が発見されました(*5)。以降ナイジェリアでは原油生産が盛んになり、1971年ナイジェリアは石油輸出国機構に加盟し、産油国の一員となりました(*5)。原油生産の収入により、1970年代ナイジェリア政府の歳入は増えていきました(*5)。政治家や軍人は歳入の一部を「自らの懐」に入れていました(*2)。ゆえに政治家や軍人の間では、1970年代からマネーロンダリングの需要が高まっていたのでした(*2)。

 先述した419詐欺内容は、当時のナイジェリアでは時代に即したものだったのです。

<引用・参考文献>

*1 『日刊ゲンダイ』2017年1月7日号(6日発行)「世界で暗躍 419詐欺って何だ」

*2 『物語 ナイジェリアの歴史 「アフリカの巨人」の実像』(島田周平、2019年、中公新書), p196-198

*3 『裏経済パクリの手口99』(日名子暁、1995年、かんき出版),p182-185

*4 『北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪』(安田峰俊、2023年、文藝春秋),p266-267

*5 『物語 ナイジェリアの歴史 「アフリカの巨人」の実像』, p193-194

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