アウトロー組織の分類(先進国向け違法薬物ビジネス)

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 先進国向けの違法薬物ビジネスでは、アウトロー組織によって「活動様式」が異なっています。別の言い方をするとアウトロー組織によって「役割」が異なっています。

 日本では国家機関の力が強く、違法薬物の自国生産は基本的に困難です。違法薬物は主に海外から調達されています。他の先進国も同様です。

 一方、後進国の場合、国家機関の力が脆弱な為、違法薬物の自国生産は困難ではありません。自国市場に違法薬物を供給しても収益は低いですが、先進国に供給すれば、収益は高くなります。

 違法薬物は「国際取引」になりやすい性格を持っているのです。また昔から後進国(密造地域)→先進国(密売地域)という経路で違法薬物は移動していました。

 「先進国向け違法薬物ビジネス」は高収益であり、世界中のアウトロー組織にとって無視しがたいものといえます。ゆえに多くのアウトロー組織が「先進国向け違法薬物ビジネス」に取り組んできたと考えられます。

 ベトナム戦争(1965~1975年)時、ベトナムのサイゴン市(現在のホーチミン市)に駐留していたアメリカ合衆国兵士の間では4号ヘロインが流行りました(*1)。アメリカ合衆国の兵士に4号ヘロインを主に供給していたのが、香港の潮州系組織でした(*1)。

 しかしアメリカ合衆国軍がベトナムから撤退すると、サイゴン市における4号ヘロイン需要は消失しました(*1)。以後、潮州系組織は海外市場に目を向けていきました(*1)。海外市場にヘロインを供給する際、当然輸送コストは高くなります。1970年代潮州系組織の指導者層は、北米(アメリカ合衆国とカナダ)、西ヨーロッパ、日本、オーストラリアを「採算の合う市場」として見込んでいたようです(*1)。4地域とも先進国です。

 今回、先進国向け違法薬物ビジネスにおける「活動様式」別に、世界のアウトロー組織を4分類してみました。

活動様式A:生産型‥違法薬物を生産することで収益を上げてきた組織

主な組織:コロンビア麻薬組織、メキシコ麻薬カルテル(ヘロイン、大麻)、1970年代の潮州系組織(*1)など

特徴①:後進国に縄張りを持ち、先進国に縄張りを持たない

特徴②:外需依存型の資金獲得活動

活動様式B:輸送型‥違法薬物を先進国に輸送することで収益を上げてきた組織

主な組織:ンドランゲタ、シチリア系アウトロー組織、メキシコ麻薬カルテル(コカイン)、ドミニカ系組織(アメリカ合衆国北東部にコカイン等を密輸)(*2)、1970年代後半のヤーディー(コロンビアのコカインをイギリスに密輸)(*3)など

特徴①:違法薬物を生産せず、先進国の小売市場に参入しない

特徴②:複数地域に拠点を持ち、広域ネットワークを有している

活動様式C:流通型‥先進国の小売市場で違法薬物を流通させて収益を上げてきた組織

主な組織:アメリカ合衆国及びカナダの有力アウトロー組織、西ヨーロッパの有力アウトロー組織、ヤクザ組織、オーストラリアのバイカーギャングなど

特徴①:先進国の大都市に縄張りを持つ

特徴②:内需で稼げる為、外需への関心が低い

特徴③:自国通貨が「国際的な決済通貨」もしくは「弱くない通貨」である為、密輸入時の決済において有利

活動様式D:徴収型

‥違法薬物ビジネスに直接関わらないものの、関わる組織から金を徴収することで収益を上げてきた組織

主な組織:大手ヤクザ組織の1次団体、ラ・エメ(La Eme)(*4)、1990年代のティファナ・カルテル(Tijuana Cartel)(*5)

特徴①:他のアウトロー組織に対して徴収権を持つ

特徴②:活動様式A、B、Cの発展形

 メキシコ麻薬カルテルは活動様式A(生産型)及びB(輸送型)である為、ハイブリッドな組織といえます。アメリカ合衆国側のシチリア系アウトロー組織はアメリカ合衆国内に縄張りを持つ為、活動様式B(輸送型)及びC(流通型)ともいえます。一方、イタリア側のシチリア系アウトロー組織はヘロイン精製工場をシチリア島に持っていたことから(*7)、活用様式A(生産型)及びB(輸送型)といえます。

 リズート・ファミリーはカナダのモントリオール市に縄張りを持つ一方で、モントリオール港着の違法薬物をニューヨーク州及びニュージャージ州に「再輸出」していました(*8)。つまりリズート・ファミリーはモントリオールにおいては活動様式C(流通型)でしたが、ニューヨーク州及びニュージャージ州においてはB(輸送型)の活動様式をとっていたのです。

 ヤーディー(ジャマイカ系アウトロー組織の総称)はコカインに関してはイギリス国内で当初、活動様式B(輸送型)でしたが、後にコカインの流通市場も掌握していきました(*3)。ゆえにヤーディーは「B(輸送型)」から「B(輸送型)及びC(流通型)」に変貌を遂げていったと考えられます。

 活動様式Dの組織は、他の活動様式(A、B、C)の組織から金を徴収することで、収益を得ています。例えば大手ヤクザ組織の1次団体は下部団体に対し徴収権を持っています。ゆえに1次団体は違法薬物ビジネスに手を出さずとも、収益を得られます。

 一方、下部団体は1次団体に上納金を納めないといけないので、検挙リスクを負って違法薬物ビジネスに手を出しています。覚醒剤の卸売りや小売で収益を得る下部団体は活用様式Cの組織であり、大麻栽培で収益を得る下部団体は活動様式Aの組織となります。活動様式A、B、Cの組織は並列になるものの、活動様式Dだけは別です。「活動様式Dの組織」は「他の活動様式(A、B、C)の組織」の上位にあるのです。

 アメリカ合衆国の刑務所ギャング「ラ・エメ」は違法薬物ビジネスにおいて、「メキシコ麻薬カルテル」と「カリフォルニア州南部のヒスパニック系ストリートギャング」の間に立つ「卸売り」のポジションであった一方で、販売先のヒスパニック系ストリートギャングから収益の一部を徴収していました(*4)。ラ・エメは「C(流通型)及びD(徴収型)」といえます。ラ・エメはカリフォルニア州の刑務所内においては「有力組織」であり、ヒスパニック系ストリートギャングの服役者を「管理」していました(*6)。アウトロー組織は特質上、常に構成員の収監リスクを抱えています。ヒスパニック系ストリートギャングにとって、ラ・エメは「収監中の構成員」を守ってくれる重要な組織であり、軽視できない存在です。

   ティファナ・カルテルはメキシコ麻薬カルテルであるものの、他のメキシコ麻薬カルテルとはやや性格が異なっていました。1990年代のティファナ・カルテルは、アメリカ合衆国との国境地域の一部(バハ・カリフォルニア州)を「支配」していた為、密輸目的で支配エリア内を通行する他団体から通行手数料「デレッチョ・デ・ピソ」(derecho de piso)を徴収していました(*5)。加えてティファナ・カルテルはコロンビアからコカインを仕入れて、密売活動をしていました(*5)。1990年代のティファナ・カルテルは「D(徴収型)」兼「B(輸送型)」の組織だったといえます。

 しかし2000年代ティファナ・カルテルは、シナロア・カルテル(Sinaloa Cartel)等の他団体と対立していきました(*5)。シナロア・カルテルは攻撃の1つとして、メキシコの連邦捜査機関に、ティファナ・カルテルの内部情報(違法薬物ビジネス等の詳細情報)を流しました(*5)。アレリャーノ兄弟(ティファナ・カルテルのトップ層)のラモン・アレリャーノ・フェリックス(Ramón Arellano Felix)が2002年2月シナロア州のマサトランで殺害されました(*5)。翌月(3月)にはアレリャーノ兄弟のベンジャミン・アレリャーノ・フェリックス(Benjamín Arellano Felix)がプエブラ州で逮捕されました(*5)。

 以後ティファナ・カルテルは内部抗争にも陥り、弱体化していきました(*5)。 結果シナロア・カルテルが、ティファナ・カルテルの拠点を除き、バハ・カリフォルニア州内における「越境経路」の大半を支配するに至ったと考えられています(*5)。ゆえに近年のティファナ・カルテルは「D(徴収型)」の組織とはいえないでしょう。

 19世紀前半の中国ではインド産アヘンが流行しました(*9)。イギリスの東インド会社はインドにおいて1797年アヘン製造独占権を獲得しました(*9)。東インド会社製造のアヘンを中国に輸送したのが「カントリー・トレーダー」(民間商人)でした(*10)。当時東インド会社は中国から独占的に調達していた茶葉の商売で高収益を上げていました(*10)。しかしアヘンの密輸が発覚すれば、東インド会社は中国との関係悪化を余儀なくされ、商売でダメージを受けます(*10)。ゆえに東インド会社はカントリー・トレーダーに「アヘン輸送業務」を委託したのです(*10)。

 イギリスでは1833年まで対中国貿易は「東インド会社の独占事業」でした(*9)。1833年以前、カントリー・トレーダーによるアヘン輸送(中国行き)は、イギリスにおいても「違法行為」(東インド会社の独占事業に反する行為)だったのです。消費地の中国では中国のアヘン商人が流通を担ったと考えられます。アウトロー組織ではないものの、東インド会社は活動様式A(生産型)、カントリー・トレーダーは活動様式B(輸送型)、中国のアヘン商人は活動様式C(流通型)に該当することが分かります。この場合、活動様式Dに該当するのは「当時のイギリス政府」であると考えられます。

 基本的に活動様式Dはなくても違法薬物ビジネスは回ります。しかし活動様式A、B、Cに関しては、3つとも「ない」と違法薬物ビジネスは回りません。言い換えると、活動様式A、B、Cの組織が存在して始めて、活動様式Dの組織が存在しうることができています。

 裏社会において最初から「活用様式D」を目指すのは極めて困難な作業です。最初はどこの組織も活動様式A、B、Cのどれかから始めていったと考えられます。

 活動様式Dの組織は、「A、B、C組織の発展形」であり、「アウトロー組織の究極形」といえます。

<引用・参考文献>

*1 『ORGANIZED CRIME:A Global Perspective』「Organized Crime in Australia: An Urban History」(Alfred W. McCoy,1986, ROWMAN & LITTLEFIELD PUBLISHERS),p269-270

*2 アメリカ合衆国麻薬取締局サイト内「2020全米麻薬脅威評価(National Drug Threat Assessment)」(2021), p73-74

https://www.dea.gov/sites/default/files/2021-02/DIR-008-21%202020%20National%20Drug%20Threat%20Assessment_WEB.pdf

*3 『The Real Top Boys: The True Story of London’s Deadliest Street Gangs』(Wensley Clarkson, 2020, Welbeck), p20-21

*4 『State of War MS-13 and El Salvador’s World of Violence』(William Wheeler、2020年、Columbia Global Reports), p36-37

*5 『Mexican Cartels: An Encyclopedia of Mexico’s Crime and Drug Wars』(David F. Marley,2019,Abc-Clio Inc), p256-259

*6 InSight Crimeサイト「El Salvador’s Other Gang from California: the Sureños」(Juan Jose Martinez,2014年12月23日)

*7 『シチリア・マフィアの世界』(藤澤房俊、2020年、講談社学術文庫),p223

*8 『THE  MAPLE SYRUP MAFIA A HISTORY OF ORGANIZED CRIME IN CANADA』(GERG THOMPSON、2014、CreateSpace Independent Publishing Platform), p23

*9 『東インド会社 巨大商業資本の盛衰』(浅田實、2017年、講談社現代新書),p205-206

*10 『中国の歴史9 海と帝国 明清時代』(上田信、2021年、講談社学術文庫), p496-498

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