オーストラリアの違法煙草

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 オーストラリアには違法煙草(Illicit tobacco)市場があります。違法煙草は合法煙草より安価で販売されてきました(*1)。違法煙草ビジネスに従事する者は、行政の規制に従わず、関税等を払わない為、費用を抑えることができました(*1)。

 2021年時点のオーストラリアでは、煙草小売価格において1ドルあたり79セントが税金となっています(*2)。税負担率は79%です。つまりオーストラリアの小売店において価格40ドルの煙草の税額は「31.6ドル」となります。

*「1豪ドル」は、セントに直せば「100セント」になります。

 オーストラリアでは2つの税が煙草にかかります。1つが物品税(Excise duty)で、2つ目が物品サービス税(Goods and Services tax:GST)です(*2)。2つとも課税主体は連邦政府です(*2)。税負担率79%の内訳は、2019年時点では物品税が70%、物品サービス税が9%でした(*3)。

 物品サービス税に関しては、連邦政府が徴税後、各州に分配しています(*2)。物品サービス税は日本でいえば「消費税」に該当し、オーストリアでの税率は10%です(*2)。

 一方日本の場合、煙草の税負担率は約61.7%です(*4)。日本に比し、オーストラリアの方が煙草の税負担率は重いです。

 オーストラリアの違法煙草市場には主に4つの商品形態があります。1つ目が「密輸煙草」(Contraband)、2つ目が「イリシト・ホワイツ」(Illicit Whites)、3つ目が「偽造煙草」(Counterfeit)4つ目が「無印煙草」(Unbranded tobacco)です(*1) 。

 密輸煙草とは、オーストラリア以外の国で合法的に製造された煙草で、その後オーストラリアに密輸されたものを指します(*1)。また「個人輸入の上限量」を超えて、外国からオーストラリアに煙草(外国製合法煙草)持ち込んだ場合も、密輸煙草に該当します(*1)。

 イリシト・ホワイツとは、ある国や市場において合法的に製造されているが、「密輸目的で製造されている」と指摘される煙草を指します(*1)。イリシト・ホワイツの販売業者は、オーストラリアでは税金を払いません(*1)。

 2000年代以前ヨーロッパの闇市場では密輸煙草(Contraband)が主流でしたが、2000年代に大手煙草メーカーが欧州連合(EU)に対し「密輸煙草に対する取り組み強化」を約束したこともあり、ヨーロッパにおいて密輸煙草の流通量は減少していきました(*5)。フィリップ・モリス・インターナショナル(Philip Morris International)は欧州連合(EU)に密輸煙草を流入させた疑いで欧州委員会から2000年提訴されていました(*5)。フィリップ・モリス・インターナショナルは密輸煙草対策として10億ユーロ以上をEU及び加盟国に払うことで、2004年訴訟を取り下げてもらいました(*5)。

 以降ヨーロッパの闇市場では密輸煙草が減少した一方、イリシト・ホワイツの流通量が増加していきました(*5)。ヨーロッパにおけるイリシト・ホワイツの製造国としてはモンテネグロが有名でした(*5)。2010年代モンテネグロのバール港は「イリシト・ホワイツ」の輸出拠点として知られていました(*5)。バール港発のイリシト・ホワイツは、表向きリビアやエジプト、北キプロス、レバノンを輸出先として海上輸送されました(*5)。しかし一部のイリシト・ホワイツは密かにギリシャ(EU加盟国)に運ばれていました(*5)。

 2015年3月16日早朝、ギリシャのクレタ島南岸で一艘の漁船(ザーラ号:Zahra号)が停泊していました(*5)。ザーラ号のウクライナ人船員6人は煙草箱の陸揚げ作業をしていたところ、ギリシャ沿岸警備隊に拘束されました(*5)。陸揚げ作業ではベルトコンベアが用いられ、4台のトラックに向けてベルトコンベヤが煙草箱を運ぶ方法がとられていました (*5)。ザーラ号(バール港発と思われる)の行き先は書類上リビアであり、ザーラ号には3,400万本の煙草が積まれていました(*5)。EU非加盟国モンテネグロのイリシト・ホワイツは、まず海上経路でEU加盟国ギリシャに密輸され、次にギリシャからEU各国に流通していったと考えられます。

 オーストラリアの話に戻ります。オーストラリアではイリシト・ホワイツはパッケージによって大別されています(*1)。「オーストラリア市場向けにデザインされているパッケージ」(Domestic Illicit Plains)、「オーストラリア市場向けにデザインされていないパッケージ」(Illicit Whites(non-domestic))の2種類のイリシト・ホワイツがあります(*1)。

 2011年の「煙草プレーンパッケージ法」(Tobacco Plain Packaging Act)によりオーストラリアでは、煙草パッケージが一色(Pantone 448C)に定められました(*6)。つまりオーストラリアの煙草製造業者はパッケージ作りにおいて、Pantone 448Cの色しか使えなくなったのです。

 また2012年改正された「競争・消費者(たばこ)情報基準2011」(Competition and Consumer (Tobacco) Information Standard 2011)では、煙草パッケージに健康被害の内容を載せることが求められました(*7)。

 つまり「オーストラリア市場向けにデザインされているパッケージ」(Domestic Illicit Plains)とは、「Pantone 448Cという色の上に健康被害を訴える内容」のパッケージを意味します。

 偽造煙草とは、違法に製造及び販売されたものを指します(*1)。一般的に偽造煙草は、大きな貨物コンテナの中に隠されて、オーストラリアに海上密輸されています(*1)。また偽造煙草は航空便にてオーストラリアに密輸されることもあります(*1)。

 無印煙草とは、違法の刻み煙草(loose leaf tobacco)のことです(*1)。一方、先述の「密輸煙草」「イリシト・ホワイツ」「偽造煙草」は紙巻き煙草(cigarettes)の形態をとっています(*1)。

 合法の刻み煙草は小袋の中に収められ、売買されています(*1)。合法及び違法ともに、利用者は刻み煙草を自身で紙に巻くか、もしくは筒に入れて、喫煙します(*1)。

 無印煙草は250gもしくは500gの単位で売買されてきました(*1)。しかし最近、無印煙草は20gからでも購入可能となっているようです(*1)。無印煙草を収めた袋は「チョップ・チョップ」(‘Chop Chop’)と呼ばれています(*8)。

 違法煙草の販路としては、違法煙草も隠れて販売する合法煙草の販売店(煙草店、食料雑貨店、コンビニエンスストア)、違法煙草ビジネス業者支配下の店(個人経営の煙草店、ギフト店、アクセサリー店)、仲間同士の取引、インターネット上の取引があります(*3)。違法煙草の販売においては、バイカーギャングの支配下にある小売店もあると見られています(*3)。

<引用・参考文献>

*1 『Illicit tobacco in Australia 2018 Full Year Report』(KPMG LLP,2019), p9

*2 『Economic impact of illicit tobacco in Australia』(BIS Oxford Economics, November2021),p8-10,18

https://treasury.gov.au/sites/default/files/2022-03/258735_british_american_tobacco_australia_supporting_document_1.pdf

*3 『Economic impact of illicit tobacco in Australia』,p18

*4 一般社団法人日本たばこ協会のサイト「たばこ税」

https://www.tioj.or.jp/others/

*5 Balkan Insightサイト「Cigarette Smugglers Find Safe Harbour in Montenegro, Again」(Visar Prebreza, Marko Vesovic, Vladimir Otasevic, Naima Chougui, Lawrence Marzouk, Ivan Angelovski, Jelena Cosic and Ahmed ElShamy,2019年5月30日)

https://balkaninsight.com/2019/05/30/cigarette-smugglers-find-safe-harbour-in-montenegro-again/

*6 『Illicit tobacco in Australia 2018 Full Year Report』, p17

*7 オーストラリア連邦政府の立法登録簿(The Federal Register of Legislation)サイト「Competition and Consumer (Tobacco) Information Standard 2011 as amended」

https://www.legislation.gov.au/Details/F2012C00827

*8 『Economic impact of illicit tobacco in Australia』,p17

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