モスクワのアウトロー組織:ソーンツェヴォ

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 ロシアのアウトロー組織「ソーンツェヴォ」(ラテン文字転写:Solntsevo)は1980年代中盤、モスクワ南西の郊外で、2人の若者により結成されました(*1)。結成者の2人は「ミハス」(Mikhas)と「アベラ」(Avera)というニックネームを持っていました(*1)。

 ソーンツェヴォは、ゲンナジー・カルコフ(ラテン文字転写:Gennady Karkov)の組織の元構成員を引き入れることで、モスクワにおける足場を作りました(*1)。ゲンナジー・カルコフは別名「モンゴル」とも呼ばれ、昔モスクワ裏社会における大物の1人でした(*1)。

 またソーンツェヴォは、大物のヴャチェスラーフ・‘ヤポンチク’・イワンコフ(ラテン文字転写:Vyacheslav ‘Yaponchik’Ivankov)を自陣に引き込みました(*1)。加えてソーンツェヴォは「オレホヴォ・ギャング」(ラテン文字転写:Orekhovo gang)と同盟を結びました(*1)。

 オレホヴォ・ギャングは1988年結成され、中心メンバーは若いスポーツマンや退役軍人でした(*1)。オレホヴォ・ギャングは資金獲得活動を苦手としていた一方で、戦闘力には長けていました(*1)。1985年3月ゴルバチョフが旧ソ連の共産党書記長に就きました (*2)。ゴルバチョフの改革期からソーンツェヴォとオレホヴォ・ギャングの同盟が始まりました(*1)。

 後の1994年頃オレホヴォ・ギャングは分裂しました(*1)。ソーンツェヴォは旧オレホヴォ・ギャング勢力の大半を吸収しました(*1)。当時モスクワのスラブ系組織の「筆頭」はソーンツェヴォでした(*1)。またソーンツェヴォは裏社会の領域においてモスクワの南西部と中央部を直接支配していました(*1)。

 当時モスクワの裏社会ではコーカサス地方(チェチェンやグルジア等)系の組織も活動していました(*1) (*3)。モスクワ裏社会においてスラブ系とコーカサス系の間で「調整役」を果たしたのがソーンツェヴォでした(*1)。

 加えてソーンツェヴォはロシア中にネットワークを拡張させ、構成員を増やしていきました(*1)。

 1990年代ロシアの裁判所は、民商事紛争に対し、機能していませんでした(*4)。債権の回収、契約不履行による損害賠償金の獲得は、裁判所の解決では時間を要し、不確実でした(*4)。

 合法領域での解決が難しい中、ソーンツェヴォは「民商事紛争の私的解決」をビジネスとしました(*4)。ソーンツェヴォは依頼者(請求者)には「請求金額の一部」(一般的に市場価格の20%)を提供し、紛争解決を慎重かつ迅速に図りました(*4)。請求者側はソーンツェヴォに頼めば、「市場価格の20%」を取り戻すことができたのでした。

 日本ではヤクザ組織の資金獲得方法として「切り取り」や「追い込み」という債権回収代行業がありました(*5)。ソーンツェヴォも「民商事紛争の私的解決」ビジネスにおいて、債権回収の件では、債務者から何かしらの回収を行ったと考えられます。ちなみに日本の「切り取り」や「追い込み」の場合、依頼者には「回収額の半分」が提供されました(*5)。

 1998年ロシア金融危機は裏社会にも影響を与え、多くの地方アウトロー組織を破綻寸前に追い込みました(*4)。破綻寸前の地方アウトロー組織は、強大な組織を頼るようになり、結果ソーンツェヴォは勢力を拡張させていきました(*4)。2000年代までにソーンツェヴォはモスクワの地盤を固め、またトヴェリ州(中央連邦管区)、リャザン州(中央連邦管区)、トゥーラ州(中央連邦管区)、サマラ州(沿ヴォルガ連邦管区)、ニジニ・ノヴゴロド州(沿ヴォルガ連邦管区)、カザン(沿ヴォルガ連邦管区タタールスタン共和国)、ペルミ地方(沿ヴォルガ連邦管区)に勢力を拡張させました(*4)。海外ではソーンツェヴォはウクライナ(特にクリミア、ドネツク)、リトアニア、カザフスタン北部、ヨーロッパ、イスラエル、アメリカ合衆国に勢力を拡張させました(*4)。

 マーク・ガレオッティ(Mark Galeotti)によれば、ソーンツェヴォの組織形態は「ネットワーク」でした(*4)。小規模ギャング、犯罪集団、個人がソーンツェヴォのネットワークを形成していました(*4)。ソーンツェヴォには「内部統制力」はなく、非公式のルールを破った者を処分する為の「規律」もありませんでした(*4)。ソーンツェヴォ内には指揮命令系統はなかった、あったとしても機能は弱かったと考えられます。ソーンツェヴォはいわゆる「連合体組織」であったと考えられます。

 構成員の資格は、ソーンツェヴォの重要人物のコネクション等で付与されました(*4)。ソーンツェヴォ内の交流は最小限で行われていたと考えられています(*4)。

<引用・参考文献>

*1 『The Vory: Russia’s Super Mafia』(Mark Galeotti,2018, Yale University Press), p146-147

*2 『ユーラシア・ブックレットNo.89 いまどきロシアウォッカ事情』(遠藤洋子、2006年、東洋書店), p20

*3 『The Vory: Russia’s Super Mafia』, p154

*4 『The Vory: Russia’s Super Mafia』, p148-149

*5 『DATAHOUSE BOOK 011 シノギの手口』(夏原武、2003年、データハウス), p56-57

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