ベネズエラとガソリン密輸

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 南米の石油大国ベネズエラ(世界最大の石油埋蔵量を有す国)では2020年時点、ガソリンがコロンビアやブラジルから密輸されていました(*1)。報告によれば、ベネズエラの闇市場において「コロンビアの密輸ガソリン」は1リットルにつき1.5ドルで密売されていました(*1)。

 一方ベネズエラの合法市場ではガソリン1リットルの販売価格は約2~2.5ドルでした(*1)。ベネズエラの人々にとって、合法市場のガソリンは高く(1リットルにつき約2~2.5ドル)、闇市場のガソリンは安かった(コロンビアの密輸ガソリンは1リットルにつき1.5ドル)のです。

 2020年5月中頃のコロンビアでは、ガソリン1リットルの販売平均価格は0.53ドルでした(*1)。密輸業者はコロンビアでガソリン1リットルを0.53ドルで仕入れ、ベネズエラに行き1.5ドルで売り、約1ドルの利益を上げていました。

 「コロンビアのラ・グアヒーラ県」-「ベネズエラのスーリア州」間の辺鄙な道路は、燃料の密輸経路として盛況を呈していました(*1)。闇市場においてガソリン密売業者は「ピンピネロス」(pimpineros)と呼ばれていました(*1)。2022年5月スーリア州都市部の街角ではピンピネロスがガソリンをソーダのペットボトルに入れて密売していました(*2)。

 昔は逆の流れでした。ベネズエラのガソリンがコロンビアやブラジルに密輸されていました(*1)。昔のベネズエラではガソリンは1リットルにつき1セントで市民に販売されていました(*2)。1セントは0.01ドルです。当時ベネズエラのガソリンには「補助金」が付いていました(*2)。昔密輸業者はベネズエラのガソリンをコロンビアなどの外国に密輸すれば、大きな利幅をとることができました(*2)。

 ガソリンがコロンビアやブラジルからベネズエラに密輸された要因としては、ベネズエラの製油能力が低かったこと(原油が精製されて、ガソリンは作られています)、アメリカ合衆国の制裁で外国からガソリンを輸入できなかったことがありました(*1)。アメリカ合衆国政府は2019年1月からベネズエラに対し、石油貿易の制裁を行いました(*3)。

 ベネズエラにおいて石油埋蔵量の多くは、ベネズエラ東部のオリノコ川流域(オリノコ・デルタ)にありました(*4)。オリノコ川流域の原油は、超重質油でした(*4)。オリノコ超重質油は、比重が重い為、流動性が低かったです(*4)。ゆえにパイプラインはオリノコ超重質油を輸送できませんでした(*4)。またオリノコ超重質油の形状のままでは、精製も困難でした(*4)。

 一方、比重の軽い原油(軽質原油)は精製しやすい為、市場価値は高いです(*5)。

 パイプラインで輸送し、また精製するには、オリノコ超重質油の比重を軽くする必要がありました(*4)。方法の1つとしては、「比重の軽い石油」を用いて希釈することがありました(*4)。

 ベネズエラは「比重の軽い石油」(希釈用石油)をアメリカ合衆国から輸入していましたが、先述した2019年1月の制裁措置により「比重の軽い石油」を輸入できなくなりました (*3)。ベネズエラ国内においてガソリンに精製することも、容易ではなかったことが窺いしれます。

 ベネズエラ国内のガソリン不足が、密輸横行の背景にあったのです。

 「ベネズエラ国営石油会社」(PDVSA)が国内石油事業の開発及び生産を独占していました(*6)。ベネズエラにおいて「国営石油会社」は、ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の1社だけでした(*6)。PDVSAは「Petróleos de Venezuela,S.A.」の略です。

 また近年ではベネズエラ国内のパイプライン(全長1,444km)から燃料が窃盗されており、さらにガソリンが不足していきました(*7)。ベネズエラでは燃料はパイプラインによって石油精製工場から充填センターに供給されていました(*7)。

 しかし2022年後半からスーリア州のガソリン闇市場は崩壊し始めていきました(*2)。背景にはスーリア州が燃料補助金を段階的に廃止したこと、大半のガソリンスタンドの管理を市民に委譲したこと等がありました(*2)。また燃料供給量も増えており、特にイランからの燃料供給量が増えているといわれています(*2)。実際イランはベネズエラに対し原油の輸出量を増やしてきました(*2)。

 イランもベネズエラ同様に、アメリカ合衆国による貿易制裁の対象になっています(*8)。現在はロシアも同様の制裁を受けています(*8)。アメリカ合衆国の制裁をかいくぐる方法としては、原油の海上積み替えがありました(*8)。積み替えによって、原油産地を偽装するのです(*8)。海上積み替えの際、人工衛星から見えないようにするため、船舶は発信機を切りました(*8)。

<引用・参考文献>

*1 InSight Crimeサイト「Despite Vast Oil Reserves, Venezuela Smuggling Gasoline From Colombia, Brazil」(Venezuela Investigative Unit,2020年5月15日)

https://insightcrime.org/news/analysis/venezuelas-gasoline-colombia-brazil/

*2 InSight Crimeサイト「Inside the Evaporating Black Market for Gasoline in Zulia, Venezuela」(Venezuela Investigative Unit,2023年4月12日)

https://insightcrime.org/news/inside-evaporating-black-market-gasoline-zulia-venezuela/

*3 『ベネズエラ ― 溶解する民主主義、破綻する経済』(坂口安紀、2021年、中公選書),p182

*4 『ベネズエラ ― 溶解する民主主義、破綻する経済』,p164

*5 『チャベス政権下のベネズエラ』「第4章 国家介入型経済政策とマクロ経済へのインパクト」(坂口安紀、2016年、アジア経済研究所),p157

*6 『ベネズエラ ― 溶解する民主主義、破綻する経済』,p166-168

*7 InSight Crimeサイト「Theft and Corruption Hinder Venezuela’s Oil Industry」(Venezuela Investigative Unit,2023年6月26日)

https://insightcrime.org/news/theft-and-corruption-hinder-venezuelas-oil-industry/

*8『週刊エコノミスト』2022年7月12日号「制裁の抜け道 「ロシア産」巧みに使う新興国 中東頼みの日本は脱炭素が急務」(大場紀章),p43

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