オランダの地元バイカーギャング

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 下記のバイカーギャングの中には、実際は、パッチ(組織専用のワッペン)を持つだけでアウトロー組織ではなく、「アウトロー風なバイカークラブ」に過ぎなった組織もあったと考えられます。

 ちなみにアウトロー組織ではないものの、パッチを持つバイカークラブは「テンパーセントクラブ」(10% club)と呼ばれました(*1)。

オランダでは「コンフェデレイツ」(Confederates)というバイカークラブが活動していました (*2)。

 「ベテランズ」(Veterans)は、オランダで唯一の「軍人バイカークラブ」として知られていました(*3)。

「ローグズ」(Rogues)は1979年、オランダのオプメールで結成されました(*4)。2018年時点でローグズはオランダに2つの支部を持っていました(*4)。

 「サトゥダラ」(Satudarah)は1990年、モードレヒト(南ホラント州)で結成されました(*5)。結成者はモルッカ系のバイカー達でした(*6)。モルッカ系の人々は、インドネシアのモルッカ諸島にルーツを持ちます(*6)。モルッカ諸島は、オランダの植民地でした(*6)。

 サトゥダラは多文化主義を志向していました(*6)。おそらくサトゥダラは多民族系のバイカーギャングだったと推測されます。

 サトゥダラは1997年「協議会」(Council)に加わりました(*6)。「協議会」は1996年、オランダバイカーギャング業界で発足した親睦団体でした(*6)。サトゥダラ加盟前の「協議会」は、アメリカ合衆国系バイカーギャング「ヘルズ・エンジェルス」(Hell’s Angels)、ローグズ、「デーモンズ」(Demons)、コンフェデレイツ、「ブラック・シープ」(Black Sheep)、ベテランズ、「アニマルズ」(Animals)の7団体で構成されていました(*6)。

 「協議会」加盟のローグズ、コンフェデレイツ、ベテランズは先述した同名組織であると思われます。

 「協議会」は「八団体協議会」(Council of Eight)とも呼ばれました(*6)。「協議会」の運営目的としては、オランダバイカーギャング業界内の平和維持がありました(*6)。

 2011年サトゥダラは「協議会」を脱退しました(*6)。一方「協議会」側がサトゥダラを追放したとの見方も別にありました(*6)。

 2012年のオランダにおいてサトゥダラの勢力は、ヘルズ・エンジェルスを上回っていました(*7)。サトゥダラは2012年時点で、400人の構成員を擁し、20支部を持っていました(*7)。2018年の情報ではサトゥダラはオランダ国内に10支部を擁していました(*5)。

 2017年以前のオランダバイカーギャング業界ではサトゥダラ、ヘルズ・エンジェルス、「ノー・サレンダー」(No Surrender)、「トレーラー・トラッシュ」(Trailer Trash)、「レッド・デビルズ」(Red Devils)の5つが「ビック・ファイブ」(big five)と呼ばれていました(*8)。

 ビック・ファイブのうちヘルズ・エンジェルスとレッド・デビルズの2団体が外国勢でした。

 ヘルズ・エンジェルスは1977年、オランダに進出しました(*9)。1977年アムステルダム(北ホラント州)においてビッグ・ウィレム(Big Willem)の率いるバイカークラブが、ヘルズ・エンジェルスの仮支部になりました(*9)。

 違法薬物ビジネスにおいて、アムステルダムやロッテルダム(南ホラント州)の港は、主要密輸拠点でした(*9)。またオランダでは大麻(マリファナ、ハシシ)がコーヒーショップで売られていました(*10)。コーヒーショップ自体は合法的な施設でした(*10)。オランダ政府は大麻を合法化していませんが、個人使用目的での「大麻少量所有」については告訴しないという策をとってきました(*10)。オランダは1953年の阿片法改正で大麻使用を禁止していましたが、1976年の阿片法改正で大麻の所持と使用を「非犯罪化」しました(*11)。

 オランダのコーヒーショップでは1回の大麻購入量は「3g以内」と定められていました(*10)。ちなみにジョイント1本には、約0.5gのマリファナが使用されています(*12)。3gのマリファナは、ジョイントに直すと、ジョイント6本分になります。

 オランダ政府は、コーヒーショップでの大麻取引には、税金を課しました(*10)。オランダ政府は範囲を設けた上で、大麻使用を黙認していたのでした。

 翌1978年そのアムステルダム仮支部は「支部」に昇格しました(*9)。1980年までにヘルズ・エンジェルスは、オランダにおける2番目の支部をハールレム(北ホラント州)に置きました(*9)。3番目がリンブルフ州ノマド支部(1986年設立)でした(*9)。ヘルズ・エンジェルスの勢力拡張で大きな役割を果たしたのが、先述のビッグ・ウィレムでした(*9)。しかし後にビッグ・ウィレムはヘルズ・エンジェルスから脱退することを余儀なくされました(*6)。

 ヘルズ・エンジェルスはアムステルダムにおいて「レッド・ライト地区」(red-light district)に進出、カフェやナイトクラブを開業させました(*9)。ヘルズ・エンジェルスはレッド・ライト地区において影響力を持つに至りました(*9)。レッド・ライト地区は、日本では「飾り窓地区」という名前で知られています。飾り窓地区(レッド・ライト地区)は売春街です。オランダの売春街では、売春婦は窓の中に立ち、客を待ちました(*10)。オランダ政府は、売春婦に対し、売春による収益の納税を求めました(*10)。オランダ政府は、大麻使用同様に、売春も黙認していたのです。

 またアムステルダム支部は、ヘルズ・エンジェルスのヨーロッパ勢の「本部」(mother chapter)になりました(*9)。2007年ドイツのハノーファー支部が、アムステルダム支部に代わり、ヨーロッパ勢の本部になったとされています (*6)。

 もう1つの外国勢レッド・デビルズは「ヘルズ・エンジェルスのサポートクラブ」でした(*13)。レッド・デビルズは2001年スウェーデンで結成されました(*13)。レッド・デビルズは2013年、オランダのあるバイカークラブ(非アウトロー組織)を傘下に収める形で、オランダに進出しました(*13)。

 先述したように、2011年サトゥダラは「協議会」を脱退し、2012年時点では勢力差で外国勢のヘルズ・エンジェルスを上回っていました。そして翌2013年レッド・デビルズ(ヘルズ・エンジェルスのサポートクラブ)がオランダに進出しました。

 見方によっては、ヘルズ・エンジェルスがサトゥダラに対抗すべく、サポートクラブのレッド・デビルズをオランダに呼び寄せたという可能性も考えられます。

 当時ビック・ファイブ内においてサトゥダラの存在感は大きかったことが窺えます。

 サトゥダラの脱退(2011年)により、オランダバイカーギャング業界において「協議会」の影響力は弱くなっていきました(*6)。

 その後、デーモンズとブラック・シープも「協議会」を脱退しました(*6)。結果、2013年「協議会」は消滅しました(*6)。

 ビック・ファイブの1つであるノー・サレンダーは、2013年サトゥダラのオランダ勢前トップ(National president)によって結成されました(*6)。ノー・サレンダーも、サトゥダラ同様、多文化的主義を志向しました(*6)。先述した元ヘルズ・エンジェルスのビッグ・ウィレムは、結成年(2013年)に、ノー・サレンダーに入りました(*6)。ビッグ・ウィレムは、ノー・サレンダーのアムステルダム支部の支部長になりました(*6)。ノー・サレンダーは結成以降、勢力を拡張させていきました(*13)。

 ちなみに後のビッグ・ウィレムは支部長を辞め、スペインに移住しました(*6)。

 ビック・ファイブの1つであるトレーラー・トラッシュは2004年、流浪者コミュニティ出身者達によって結成されました(*13)。2009年トレーラー・トラッシュはサトゥダラに加入しました(*13)。サトゥダラは多文化主義を志向していた為、流浪者コミュニティを出身母体とする組織の自陣入りを認めたのだと考えられます。

 サトゥダラのような多文化主義を志向したバイカーギャングとしては、例えばアメリカ合衆国では「ホイールズ・オブ・ソウル」(Wheels of Soul)(*14)、「チョーズン・フュー」(Chosen Few) (*15)、「ソウル・ブラザーズ」(Soul Brothers)(*16)がありました。ホイールズ・オブ・ソウル、チョーズン・フュー、ソウル・ブラザーズの3団体は「多民族系」(multiracial)の組織でした(*14) (*15) (*16)。

 旧トレーラー・トラッシュの勢力は、サトゥダラ加入後、上着の後面下部に「Trailer Trash」という文字のパッチ(ワッペン)を縫い付けていました(*13)。一般的に後面下部には「地名」(活動地域の名前)のパッチを縫い付けます (*17)。

 2011年、旧トレーラー・トラッシュ勢力の一部がサトゥダラを脱退、トレーラー・トラッシュを復活させました(*13)。警察組織によれば、2017年以前のトレーラー・トラッシュはオランダに少なくとも8支部を置いていました(*13)。

 オランダには「トレーラー・トラッシュ・マロ・ジペン」(Trailer Trash Maro Djipen)というバイカーギャングも活動していました(*13)。トレーラー・トラッシュ・マロ・ジペンも、トレーラー・トラッシュ同様、流浪者コミュニティから生まれました(*13)。しかしトレーラー・トラッシュ・マロ・ジペンとトレーラー・トラッシュの間には、つながりはなかったようです(*13)。つまり両団体は別々の組織だったようです。

<引用・参考文献>

*1 『The Brotherhoods: Inside the Outlaw Motorcycle Clubs』(Arthur Veno,2012,Allen & Unwin),p57

*2 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Confederates」(Bill Hayes,2018, Motorbooks)

*3 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Veterans」

*4 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Rogues」

*5 『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Satudarah」

*6 Arjan Blokland etc.(2017). Outlaw bikers in the Netherlands: Clubs, social criminal organizations, or gangs?. In A. Bain, M. Lauchs, (Eds.) Understanding outlaw motorcycle gangs: International perspectives. Durham:Carolina Academic Press.pp4-5

*7 VRT NWSサイト「Feared Dutch bikers’ gang sets up chapter in Belgium」(2012年)

https://www.vrt.be/vrtnws/en/2012/04/29/feared_dutch_bikersgangsetsupchapterinbelgium-1-1286935

*8 Arjan Blokland etc.(2017).pp3

*9 『Angels of Death: Inside the Bikers’ Global Crime Empire』(William Marsden&Julian Sher,2007,Hodder & Stoughton), p226,236-238

*10 『エリア・スタディーズ62  オランダを知るための60章  Kindle版』「麻薬、飾り窓、尊厳死 「制御」の文化」(長坂寿久、2007年、明石書店)

*11『<麻薬>のすべて』(船山信次、2019年、講談社現代新書),p55-56

*12『スマホで薬物を買う子どもたち』(瀬戸晴海、2022年、新潮新書),p227

*13 Arjan Blokland etc.(2017).pp6

*14 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』(Thomas Barker,2014,Routledge), p124

*15 チョーズン・フューMCのサイト「History」

https://www.chosenfewmc.org/history

*16『The One Percenter Encyclopedia: The World of Outlaw Motorcycle Clubs from Abyss Ghosts to Zombies Elite (English Edition)』Kindle版「Soul Brothers」

*17 『Biker Gangs and Transnational Organized Crime Second Edition』, p9-10

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