ニュージーランドの南島南部、カンタベリーにおけるMDMA(2023年第3四半期)

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 ニュージーランドでは毎月、全国規模で廃水薬物検査(Wastewater Drug Testing)が実施されています(*1)。全国規模の廃水薬物検査は2018年11月から始まりました(*1)。現在、各地の検査拠点は「ニュージーランド総人口の75%」を対象とすることができています (*1)。しかし検査拠点によって検査頻度は異なります(*1)。

 ニュージーランドの廃水薬物検査では、メタンフェタミン(methamphetamine)、MDMA、コカイン(cocaine)、ヘロイン(heroin)、フェンタニル(fentanyl)の5つが検査対象薬物となっています(*1)。定期的に充分な量が検出されるのは、メタンフェタミン、MDMA、コカインの3つです(*1)。

 ニュージーランド警察は四半期ごとに、廃水薬物検査の結果に基づいて「ニュージーランド 廃水薬物検査・全国の概要」(Wastewater Drug Testing in New Zealand: National Overview)という報告書を出しています。

 最新は「ニュージーランド 廃水薬物検査・全国の概要-2023年第3四半期調査結果」です。2023年第3四半期(7~9月)においてニュージーランド全体で、メタンフェタミン13.8kg(週平均)、MDMA 6.9kg(週平均)、コカイン2.6kg(週平均)が使用されたと、同報告書は推定しています(*1)。同時期のニュージーランドにおいて、違法薬物の中でメタンフェタミンの使用量が最も多かったと考えられました。

 日本ではメタンフェタミン(覚醒剤)は、末端市場で「パケ」と呼ばれる小袋で密売されています(*2)。このパケには0.2g程度の覚醒剤が入っています(*2) (*3)。日本では「覚醒剤一回の使用量」は0.02g程度といわれています(*4)。つまり覚醒剤1パケ(0.2g)は「10回分の使用量」となります。覚醒剤1gの場合は、50回分の使用量になります。

 2000年ニュージーランドの末端市場において、メタンフェタミンは0.1gで密売されていました(*5)。末端市場においてメタンフェタミン0.1gの価格は約100NZドルだったと考えられています(*5)。海を隔てた隣国オーストラリアの末端市場でもメタンフェタミンは0.1gもしくはg単位で密売されていました(*6)。2018~2019年オーストラリア末端市場におけるメタンフェタミン0.1gの価格は、62.5豪ドル(中央値)でした(*6)。

 MDMAは錠剤型で、1錠の重量は様々です(*7)。ベトナムで押収されたMDMAの場合、1錠の重量は0.58gで、その中の0.231gがMDMA成分でした(*7)。日本の末端市場において、MDMAは1錠から密売されており、1錠の末端価格は5,000円程度でした(*8)。オーストラリアの末端市場でもMDMAは1錠から密売されており、2018~2019年オーストラリア末端市場におけるMDMA(1錠)の価格は、25豪ドル(中央値)でした(*6)。

 一般的にコカインは末端市場において1gで密売されてきました(*9)。オーストラリアの場合、末端市場においてコカインは0.2gもしくはg単位で密売されていました(*10)。オーストラリアにおいて0.2gコカインは俗に「キャップ」(cap)と呼ばれていました(*10)。2018~2019年オーストラリア(ニューサウスウェールズ州、クィーンズランド州、タスマニア州に限る)末端市場におけるコカイン0.2gの価格は、50豪ドル(中央値)でした(*10)。

 摂取者は1gのコカインを2~3cmの長さにして、それを吸引します(*11)。コカインの場合、0.1gの吸引で薬効が現れてきます(*11)。つまりコカイン1gは、10回分の使用量になります。先述したように日本の場合、覚醒剤(メタンフェタミン)1gは、50回分の使用量でした。同じ1gでも、使用回数において、メタンフェタミンの方が、コカインより多いと考えられます。

 また体内でコカインの薬効は30~40分続くといわれています(*11)。一方、日本の覚醒剤(メタンフェタミン)の場合、静脈注射による摂取であれば、薬効は数時間続くといわれています(*12)。薬効の続く時間においては、メタンフェタミンがコカインより長いのです。

 また同報告書は、地区別に分けて、薬物の推定使用量を伝えています。10地区の1つのワイカトにおいて、メタンフェタミンは980g(週平均)、MDMAは276g(週平均)、コカインは76g(週平均)が使用されたと、同報告書は推定しています(*1)。

 地区別の推定使用量において、平均値を出す際、人口調整はされていません(*1)。ゆえに多くの人口がいる地区では、数値が高くなります(*1)。10地区の1つのタマキ・マカウラウには大都市オークランドがあります。タマキ・マカウラウにおいて、メタンフェタミンは7,262g(週平均)、MDMAは2,297g(週平均)、コカインは1,874g(週平均)が使用されたと、同報告書は推定しています(*1)。

 10地区のうち7地区が北島にあり、3地区が南島にあります(*1)。

 推定使用量において、10地区のうち8地区でメタンフェタミンが1位でした(*1)。南島南部、カンタベリーの2地区では、MDMAが1位でした(*1)。南島南部、カンタベリーともに南島にあります。

 南島南部において、MDMAは1,135g(週平均)、メタンフェタミンは230g(週平均)、コカインは88g(週平均)が使用されたと、同報告書は推定しています(*1)。

 カンタベリーにおいて、MDMAは970g(週平均)、メタンフェタミンは677g(週平均)、コカインは88g(週平均)が使用されたと、同報告書は推定しています(*1)。

 南島南部、カンタベリーにおいてMDMAの需要が高かったことが考えられます。

 ちなみに日本で流通していたMDMAの主な供給源としては、ヨーロッパ、カナダ、ナイジェリアがありました(*13)。カナダは「ヨーロッパ産MDMAの中継地」であり、カナダを経由してヨーロッパ産MDMAが日本に密輸される場合もありました(*13)。西アフリカのナイジェリアではMDMAが密造されており、そのMDMAが日本に密輸されていました(*13)。

 近年では東南アジアのカンボジアにおいてMDMAが密造されていました。少なくとも4つの密造拠点で、MDMAとその前駆物質が押収されました(*14)。2020年4月首都プノンペンにおいて57kgのMDMAが密造拠点から押収され、同年8月には「MDMAの前駆物質」と思われる物質600kgが押収されました(*14)。

 東南アジアではインドネシアやマレーシアでもMDMAは密造されていました。インドネシアでは2020年、2つのMDMA密造工場が摘発されました(*14)。マレーシアでは2020年に、3つのMDMA密造工場が摘発されました(*14)。

 オーストラリアでもMDMAは密造されていました。2019~2020年オーストラリアでは11のMDMA密造工場が発見されました(*15)。

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<引用・参考文献>

*1 ニュージーランド警察サイト

「ニュージーランド 廃水薬物検査・全国の概要-2023年第3四半期調査結果」(英語表記:Wastewater Drug Testing in New Zealand: National Overview Quarter Three 2023)

https://www.police.govt.nz/sites/default/files/publications/wastewater-results-quarter-3-2023.pdf

*2 『薬物売人』(倉垣弘志、2021年、幻冬舎新書),p203

*3 『裏社会 噂の真相』(中野ジロー、2012年、彩図社),p205

*4 『覚醒剤アンダーグラウンド 日本の覚醒剤流通の全てを知り尽くした男』(高木瑞穂、2021年、彩図社),p92

*5 『Gangland: New Zealand’s Underworld of Organised Crime』(Jared Savage,2020, HarperCollinsPublishers),p25

*6 オーストラリア犯罪情報委員会サイト内「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2019–20」(2021)の「アンフェタミン系薬物 2019–20」,p45

https://www.acic.gov.au/sites/default/files/2021-10/IDDR%202019-20_271021_Full_0.pdf

*7  UNODC(United Nations Office on Drugs and Crime)サイト「Synthetic Drugs in East and Southeast Asia Latest developments and challenges 2021」,p23

https://www.unodc.org/roseap/uploads/documents/Publications/2021/Synthetic_Drugs_in_East_and_Southeast_Asia_2021.pdf

*8 『裏社会 噂の真相』,p210

*9 『コカイン ゼロゼロゼロ 世界を支配する凶悪な欲望』(ロベルト・サヴィアーノ著、関口英子/中島知子訳、2015年、河出書房新社),p106-107

*10 「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2019–20」(2021)の「コカイン 2019–20」,p94

*11 『コロンビア内戦 ― ゲリラと麻薬と殺戮と』(伊高浩昭、2003年、論創社),p113-114

*12 『薬物とセックス』(溝口敦、2016年、新潮新書),p115

*13 『裏社会 噂の真相』,p209

*14  UNODCサイト「Synthetic Drugs in East and Southeast Asia Latest developments and challenges 2021」,p22

*15「違法薬物データレポート(Illicit Drug Data Report)2019–20」(2021)の「アンフェタミン系薬物 2019–20」,p44

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