インディアン・カジノ

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 アメリカ合衆国では1988年10月17日「インディアン・ゲーミング規制法」(Indian Gaming Regulatory Act)が制定されました(*1)。先住民(インディアン)の賭博事業は「インディアン・カジノ」と呼ばれていました(*2)。

 インディアン・ゲーミング規制法は、インディアンの部族が「インディアンの土地(Indian lands)」において常設賭場の開設権を独占的に有すことを、認めました(*1)。

 インディアン・ゲーミング規制法によれば、「インディアンの土地」とは、「保留地(reservation)」、「連邦政府がインディアン部族もしくは個人に信託した土地」もしくは「連邦政府から譲渡制限の対象となるインディアン部族もしくは個人の所有する土地」、「インディアン部族が統治権を行使している土地」を指しました(*1)。

 裏返せば、インディアン・ゲーミング規制法により、「インディアン部族以外のアクター」が「インディアンの土地」で賭場を開設するのは禁止ということが明確化したのです。

 またインディアン・ゲーミング規制法において、賭博は3種類に分けられました(*1)。

 第一種(class Ⅰ)とは、ソーシャルゲーム(賞品は最低限のもの)、部族の儀式や祝事に行われるインディアンの伝統的な賭博のことでした(*1)。インディアンの伝統的スポーツであるラクロスの勝敗を賭けることは、この第一種に該当しました(*2)。

 第二種(class Ⅱ)とは、ビンゴ、一部のカードゲーム(州法で明確に認められているもの)のことでした(*1)。 「ビンゴ」のカテゴリーの中に、ロトが含まれていました(*1)。第二種のカードゲームとしては、ポーカー等がありました(*2)。

 第三種(class Ⅲ)とは、「第一種及び第二種を除く賭博」のことでした(*1)。具体的にはバカラやブラックジャックなどのカードゲーム、スロットマシンが第三種に該当しました(*1)。

 インディアン・ゲーミング規制法の制定(1988年)前から、インディアンの部族はすでに保留地でカジノを開設していました。1979年12月フロリダ州セミノール保留地において、セミノール部族のトミー・ハワードはアメリカ合衆国で初めてビンゴ場(セミノール・ビンゴ)を開きました(*3)。当時フロリダ州は慈善団体や非営利団体等における活動に限り、ビンゴの実施を認めていました(*3)。またビンゴの実施においてフロリダ州は、賭け金の上限、実施日、収益の用途等を厳しく定めていました(*3)。

 保留地において部族は自治権を持っています(*4)。ゆえに保留地では州、郡、市などの地方自治体の法律や規定が適用されないことがあります(*4)。セミノール側は、「保有地内」のことである為、州法より自治権が優先されるという考えで、ビンゴ場の開設を正当化したと考えられます。

 しかしブロワード郡(フロリダ州)は、セミノール・ビンゴの開設は認められないという立場をとりました(*3)。結果、セミノールとブロワード郡は裁判で決着をつけることになりました。1980年連邦地裁はセミノール・ビンゴの開設を認める判決を下しました(*3)。ブロワード郡は判決を不服とし上告しましたが、1981年連邦最高裁でもセミノール・ビンゴの開設を認める判決が下されました(*3)。

 1980年10月カリフォルニア州カバゾン保留地においてカバゾン部族は、部族で初めて高額賭け金カジノ(第三種賭博のカジノ)を開設しました(*5)。一方、地方自治体のインディオ市は、カバゾンに対し、カジノ営業は州法違法であると主張しました(*5)。こちらも裁判で決着がつけられることになりました。最終的に1987年3月最高裁判所が部族側を支持する判決を下し、部族側が勝利しました(*5)。

 連邦政府は部族の賭博事業(インディアン・カジノ)を管理する為に、インディアン・ゲーミング規制法を制定したのです(*2)。

 インディアン・カジノの収益は、1988年には1億2,100万ドルで、2015年には299億ドルまで増加しました(*2)。

 部族はしばしば「高額賭け金カジノ運営権」を得ることができました(*6)。

 ちなみにアメリカ合衆国における違法賭博としては「ナンバーズ・ゲーム」(numbers games)やアメリカンフットボールに関する賭け事等がありました(*7)。ナンバーズ・ゲームはスピードくじのことで、低価格で販売されていました(*8)。

<引用・参考文献>

*1 全米インディアン・ゲーミング委員会(National Indian Gaming Commission)のサイト

「Indian Gaming Regulatory Act」

https://www.nigc.gov/images/uploads/Indian%20Gaming%20Regulatory%20Act.pdf

*2 『エリア・スタディーズ149  アメリカ先住民を知るための62章』「インディアン・カジノ 「新しいバッファロー」になりえるのか」(大野あずさ、2023年、明石書店),p156-160

*3『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』(野口久美子、2019年、ちくま新書),p136,171-172

*4 『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』,p42-45

*5 『インディアンとカジノ ― アメリカの光と影』,p175-180

*6 『Gambling Cultures  Studies in history and interpretation』「ETHICAL AND POLICY CONSIDERATIONS IN THE SPREAD OF COMMERCIAL GAMBLING」(William R.Eadington,2014,Routledge), p253

*7 『Gambling Cultures  Studies in history and interpretation』「THE ROLE OF THE STATE IN THE EXPANSION AND GROWTH OF COMMERCIAL GAMBLING IN THE UNITED STATES」(Vicki Abt,2014,Routledge),p182

*8 『FOR BEGINNERS シリーズ マフィア』(安田雅企、1994年、現代書館),p87

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