物流業界では「片荷(片道)輸送」という言葉があります。片荷輸送とは、往路と復路において、一方の経路では貨物があるが、もう一方の経路では貨物がない輸送を指します(*1)。片荷輸送は、輸送効率が悪いです(*1)。トラックの場合、貨物がない移動(空車走行)でも、当然ガソリンは消費されます(*2)。北海道のような広い地域の片荷輸送では、輸送効率が特に悪化します(*2)。
トラックでは長距離貸切輸送の復路における空車走行が非効率です(*3)。復路貨物(帰り荷)の確保が重要となってきます(*3)。往路貨物の荷主は通常、トラック輸送業者に対し、復路貨物の手配まではしてくれないからです。
荷主とは「貨物(商品)に対し法的所有権を持つ者」のことです(*4)。メーカー、卸売業、小売業が物流業者に輸送、保管を委託した場合、そのメーカー、卸売業、小売業は「荷主」と呼ばれます(*4)。
昔からトラック輸送(運送)業界では、中小トラック輸送業者間で「帰り荷の斡旋ネットワーク」(帰り荷斡旋システム)が形成されていました(*3)。トラック輸送業者は互いに、直接もしくは協働組合を介して、求荷情報や求車情報を交換し合ってきました(*3)。電話やFAXが、求荷情報や求車情報の交換時における伝達手段でした(*3)。
近年、帰り荷斡旋システムはインターネットを活用した形態に改められています(*3)。このインターネット版のシステムは「求貨求車システム」と呼ばれています(*5)。
求貨求車システムの定義を確認しておきましょう。求貨求車システムとは、「トラック事業者の需要」(空きトラックや空スペースに貨物を確保したい)と「荷主の需要」(荷物を運んでもらいたい)をマッチングさせるシステムです(*5)。求貨求車システムは「物流情報市場」や「物流電子市場」とも呼ばれます(*5)。
中国(中華人民共和国)においてもトラック輸送業者は、復路貨物(帰り荷)を確保するのに、労力を要しました。「帰り荷を求めるトラック運転手」は市街区の外れの交通要所周辺にある低料金駐車場に集まるようになりました(*6)。物流仲介業者はその駐車場内もしくは周辺に事務所を構えて、駐車場に待機するトラック運転手に貨物情報を提供しました(*6)。駐車場が「貨物輸送の市場」として形成されたのです。
この場合、貨物輸送の供給側が「トラック輸送業者(トラック運転手)」で、貨物輸送の需要側が「物流仲介業者」となります。
一方、駐車場が「貨物情報の市場」としても捉えることもできそうです。その場合、貨物情報の供給側が「物流仲介業者」で、貨物情報の需要側が「トラック輸送業者(トラック運転手)」となります。
この市場は「貨物運輸交易市場(略:貨運市場)」と呼ばれました(*6)。貨運市場において、トラック運転手は商店街のような物流仲介業者の事務所を訪ねながら、店頭の黒板に書かれている貨物情報を収集しました(*6)。興味のある情報があれば、トラック運転手はその事務所に入り、交渉をしました(*6)。
貨運市場にトラック運転手や物流仲介業者の数が増加していくと、既存の駐車エリアが狭くなっていった為、隣接地に新たな駐車場が整備されました(*6)。そのうちにトラック運転手の宿泊用ホテルが併設されました(*6)。
その貨物市場(駐車場)には、荷役(荷物の一時保管、域内配送、積み替えなど)専門業者も入居し、荷役サービスを供給していきました(*6)。また自動車修理業者や飲食店、銀行なども進出してきました(*6)。このように貨物輸送の取引に加えて、関連サービスも含んだ貨運市場群が各都市の特定地域に形成されました(*6)。
貨物市場の短所としては「探索コスト」が大きいことが挙げられました(*7)。一般的にトラック運転手(供給側)は希望の貨物情報を見つけるのに、探索に多くの時間と労力を割きました(*7)。一方、物流仲介業者(需要側)が貨物市場に流通する情報を充分に把握するのは困難でした(*7)。特に物流仲介業者が自発的に情報(供給側=トラック事業者側の情報)を獲得していくことは困難でした(*7)。
ちなみに船は、船腹を空にしたまま、航海できませんでした(*8)。タンカーは往路時(石油を仕入れに行く時)、水を満載して、吃水(船体が水面下に沈んでいる深さ)を深くしていました(*8)。
コンテナ船輸送においても「復路貨物(帰り荷)」の問題がありました。コンテナ船輸送では「往路」と「復路」において貨物量が大きく異なる場合がありました(*9)。例えば往路時には「コンテナ100個分の貨物」を輸送する一方、復路時には「コンテナ50個分の貨物」しか輸送できないというような状態です。コンテナ船輸送の二大基幹航路は「アジア~北米間」と「アジア~欧州間」でした(*10)。「アジア~北米間」「アジア~欧州間」の両航路ともに、アジア発の航路で貨物量が多く、北米及び欧州発の航路において貨物量は少なかったです(*10)。北米及び欧州側には空コンテナが発生しました(*10)。しかし北米及び欧州側は空コンテナを元の場所(アジア)に戻さなければなりませんでした(*9)。もし北米及び欧州側が空コンテナをアジア側に戻さなかった場合、アジア側でコンテナが不足して、結果的にアジア側は北米及び欧州側にコンテナ船で貨物を輸送することができなくなってくるからでした(*9)。空コンテナの回送費用は、一般的には海運会社が負担しました(*9)。そのため海運会社は帰り荷を確保する為、帰り荷の荷主に割引運賃を適用しました(*9)。
<引用・参考文献>
*1 『基本ロジスティクス用語辞典 〔第3版〕』「片荷輸送」(長峰太郎、2009年、白桃書房),p30
*2 『奇跡の小売り王国 「北海道企業」はなぜ強いのか』(浜中淳、2022年、講談社+α新書), p232-233
*3 『基本ロジスティクス用語辞典 〔第3版〕』「帰り荷斡旋システム」(長峰太郎、2009年、白桃書房),p28
*4 『基本ロジスティクス用語辞典 〔第3版〕』「荷主」(中田信哉、2009年、白桃書房),p138
*5 『基本ロジスティクス用語辞典 〔第3版〕』「求貨求車システム」(沼本康明、2009年、白桃書房),p40
*6 『中国物流産業論 高度化の軌跡とメカニズム』「第3章 トラック輸送サービス取引プラットフォームの貸運市場の高度化 – 取引コスト理論に基づく考察 -」(李瑞雪、2014年、白桃書房),p41-42
*7 『中国物流産業論 高度化の軌跡とメカニズム』「第3章 トラック輸送サービス取引プラットフォームの貸運市場の高度化 – 取引コスト理論に基づく考察 -」,p51
*8 『江戸の都市計画』(鈴木理生、2024年、ちくま学芸文庫),p262-263
*9 『コンテナから読む世界経済 経済の血液はこの「箱」が運んでいる!』(松田琢磨、2023年、KADOKAWA),p102-108
*10 『コンテナから読む世界経済 経済の血液はこの「箱」が運んでいる!』,p53-55
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